Because of You【3】
おれとかごめは、『二人だけの秘密の場所』を決めて、時々密かに逢って、他愛のない話しをして過ごしたりした。
かごめのこと、もっと知りたくて、もっと側にいたくて、煉骨に怪しまれつつも、適当に口実を作っては、楓の小屋に行ったりもした。
行ってなにするってワケでもなく、みんなの畑仕事をぼんやり眺めたり、弥勒とバカ話をしたり。
かごめと同じ時を過ごしたくて、同じものを見たかった。
今、同じ景色を見てるんだなと思えるだけで、ただ嬉しかった。
犬夜叉とは、なんか・・・視線を合わせづらいっつーか、なんていうか。
妙なわだかまりを感じたりしてる。
なんにも知らずに、かごめを想い続けているこいつを見てると、おれらしくもねえが、ちょっとばかり罪の意識を感じたりしてるんだよな。
犬夜叉からかごめを奪うつもりはねえといいつつも、これって、結果奪ったことになるんだよな?
まだ、唇だけだけど。エヘヘ。
時々煉骨と蛇骨もついて来たけど、おれとかごめの密かなアイコンタクトには、気づいちゃいねえようだ。
もちろん犬夜叉は気づくはずもねえけどよ。
いや、多分煉骨なら、気づいてんじゃねえか?
確信が持てねえから、おれに直接聞くことができねえんだな、きっと。
そろそろ、煉骨にだけは、本当のこと打ち明けといた方がいいかもしれねえ。
木陰に座って、暇を持て余してるおれの隣に、かごめが腰を下ろした。
おれたちは、誰にも気づかれねえように、指を絡めた。
「蛮骨も、みんなと一緒に畑を手伝ったら?」
「そーゆうの、おれ嫌いなんだよなぁ。覚えといてくれると助かる。」
「なんか、そういうとこ、犬夜叉にそっくりね。」
「なにぃ!?じゃあ、手伝う!」
「いいわよ。ムリして手伝ってくれなくても。」
「急に手伝いたくなったんだよ!」
「すぐムキになる。そういうところも、犬夜叉にそっくり。」
「・・・おれはおれだ。あいつとは違う!け、けどよ、おれと犬夜叉って、そんなに似てるか?」
「けっこう似てるわね。」
犬夜叉とおれが似てると言われて、おれはかなりショックを受けた。
おれのどこが、あいつと似てるっていうんだ?
犬夜叉を忘れさせてやるって言ったのに、なんかこれじゃますます犬夜叉を忘れられなくさせてるんじゃねえか?
あいつにできて、おれにできねえこと。
おれにできて、あいつにできねえことってなんだ?
「かごめ。おれといる時、あんまり犬夜叉の話をしねえでくれ。」
「・・・ごめん。」
急にかごめの表情が暗くなって、焦った。
「あ・・・たまにはいい。きゅ、急に忘れることなんかできねえって言ってたもんな。」
「私、もう行くね。」
フッとおれの指先から温もりが消えた。
「なあ、かごめ!今夜、秘密の場所で待ってる。来いよな。」
「うん。」
じゃあとかごめは、また畑へと戻って行った。
ごめんと言ったかごめの表情が、目に浮かんだ。
そうなんだよな、おれは・・・かごめを喜ばせることも、悲しませることもできてしまうんだよな。
なにを焦ってんだ、おれは?
かごめはおれを犬夜叉とダブらせて見てるんだろうか?
かごめ、おれだけを見ろ。あいつのことなんか、早く忘れちまえ。
カサリと何か音がして、おれは振り向いた。
風に木々が揺れていた。
はあ・・・。
溜め息。今日は何回、溜め息を吐いただろうな。
帰ろ。
塒に帰ると、蛇骨はいなくて、煉骨が書物を読んでいた。
「本の虫〜少しは身体を動かしたらどーだぁ?」
煉骨に一声かけて、おれはゴロリと横になった。
おれのことを無視しているのか?かまってもくれねえ。
うとうとしかけた頃、ようやく煉骨が口を開いた。
「大兄貴。話しがある。起きてくれ。」
「なんだよ?起きて聞かねーといけねえのか?」
「真面目に話を聞いて欲しい。」
「分かったよ。」
かったるいが、話しを聞いてやるか。
「ん?なんだよ?」
「単刀直入に言う。かごめのこと、好きになっちまったのか?」
ついに来たかと、おれは思った。
いつか煉骨に聞かれるんじゃねえかとは予想してたけど。
あ。そういや、さっき茂みがカサッってなった。
「立ち聞きとは、野暮なことするじゃねえか。」
「大兄貴が右足を負傷してから、なんか様子がおかしいと思ってた。コソコソ夜中に出て行くし、意味もなく畑に行ったりしてる。」
「これで分かっただろ?意味もなく畑に行ってたんじゃねーってな。」
「なんで、かごめなんだ?女なら今までにもたくさんいたじゃねえか?」
「かごめで悪いか?」
「かごめには、犬夜叉がいるじゃねえか。」
「いても構わねえ。おれが犬夜叉を忘れさせてやるんだからな。」
「現実をよく見ろ。」
「分かってるよ!だから、こっそり逢ってんだ。今、おれとかごめが付き合ってるなんて他の連中に知られてみろ。大問題だろ?」
「そういうことじゃねえよ。」
「ああ?」
「四魂のカケラ・・・それを抜き取られちまったら、おしまいなんだぜ?」
頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
おれは・・・そのことをすっかり忘れていた。
かごめに想いを伝えて、伝わった喜びで、バカみてーにはしゃいでた。
おれはいずれ、四魂のカケラを差し出さなきゃならない。
その運命からは、絶対に逃れることはできない。
全てが終った時、かごめの笑顔を、おれは見ることができない。
かごめを抱きしめてやることができない。
その時おれは、すでにこの世にはいねえってことなんだからな。
「バカだよな・・・おれ。なんで、かごめに想いを打ち明けちまったんだろーな。運命なんて、変えられるはず、ねえのに。」
「かごめが悲しもうがどうなろうが、しったこっちゃねえ。けど・・・これから先、苦しむ大兄貴を見るのは辛い。
今ならまだ間に合うんじゃねえか?かごめのことは諦めろ。この世の未練は、少ない方がいいって、大兄貴よく言ってんじゃねえか。」
確かに、未練は少ない方がいい。
想いを残して、死ねねえよな。
今ならまだ間に合うんだろうか?かごめを諦めることが、おれにできるんだろうか?
かごめのことを想うなら、そうした方がいいに決まってる。
気の迷いだ。
かごめだって、今なら引き返せる。
想いを告げられて、犬夜叉との仲が上手くいかねえからって・・・ちょっとその気になってるだけだ。
すぐそこに死が迫ってる男を・・・誰が好きになる?
生きてた頃、散々人をなぶり殺してきた。ましてや、二度も死んでんだぜ。
こんなおれは、人を愛することも、人に愛されることも、許されるわけねーじゃん。
「煉骨の言う通りだ。目ぇー醒めた。」
「かごめと顔を合わせるのが辛いっていうんだったら、この村、出て行くか?」
「ば、ばかやろーっ!!おれは、そんな軟な男じゃねーよっ!!堂々とこの村に居てやるよ。」
おれは立ち上がって蛮竜を掴んだ。
「どこに行くんだ?」
「かごめと、逢う約束してるからな。ちょっと行って来る。」
「大兄貴っ!!今決心したばっかじゃねえか!?」
「だから・・・謝りに行くんじゃねえか。あいつをその気にさせちまったのは・・・おれだから。」
「かごめならきっと、分かってくれる。大兄貴の気持ち。」
「・・・ああ。」
途中、蛇骨とすれ違った。
おれを追いかけてついて来ようとしたから、おれが無言でひと睨みしたら、おとなしく砦に引き返して行った。
早々に、待ち合わせの場所に着いてしまった。
ようやく日が暮れ始めた頃だっていうのに。
かごめが来るまで、かなり時間がある。
それまでに、気持ちに踏ん切りを着けなきゃならねえ。
苦しいのは、少しの間だけだ。
あとは忘れて、またいつもどおりの、おれとかごめに戻ってるさ。
四魂のカケラに、心の傷も癒してくれる力があれば、どんなに楽だろうなぁ。
昔のことを思い浮かべてみた。
白霊山からの今日までのことを。
かごめはあの頃から、おれを見てくれていたんだろうか?
だとしたら・・・三度目の人生で、かごめとまた出会えて良かったと思う。
白霊山で、あのまま死んでたらおれは、かごめの記憶の中に、憎しみしか残せなかったから。
最後に、この人生でおれは、かごめにどんな記憶を残せるんだろうな。
ほんのつかの間でも、かごめが幸せであるなら。
おれと出会えて良かったって言ってもらえたら――四魂のカケラを差し出すことに、意味を持つだろう。
あれこれ考えていたら、いつの間にか涙が溢れそうになっていた。
死にたくねえな・・・
ダメだ・・・できねーよ。
やっぱおれ、かごめを諦めることなんてできねえっ!!
もう、後戻りできねーっ!!
あとからあとから涙が溢れてきて、どうしようもなく涙が止まらなくなった。
叫びたくなる声を殺して、おれは泣いた。
ここで、一生分の涙を出そう。
最期の時、本当の別れの時に、かごめには笑顔で別れを告げたいから。
「蛮骨?どうしたの?」
その声に、ハッと息を呑んだ。
かごめ・・・なんで?まだ早くねえか?
泣いてるところを見られちまった。
おれは膝を抱えて顔を伏せた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
「・・・泣いてるの?」
急いで涙を拭ったりしたが、完全に泣いてるってバレてるよな。
かごめを振り向かずに、おれは言った。
「どうしたんだ?随分と早く来たんだな。」
「どうしたらいいのか分からなくなって・・・ここに来てみたの。そしたら・・・蛮骨がいた。」
なんとなく、元気のないかごめの声だった。
隣に並んでかごめが腰を下ろした。
「どうした?何があった?」
かごめは膝を抱えて、押し黙ったまま。何も話そうとしない。
多分、何か落ち込むことがあったんだろう。
おれはかごめの手を握り締めた。かごめも、握り返してくれた。
それが嬉しくもあり、辛くもあった。
「珊瑚ちゃんね、気づいてたみたい。私たちのこと。」
「え?」
「言われちゃった・・・犬夜叉がいるでしょって。蛮骨が私を誘惑してるって思ってるみたいなの。
ちゃんと否定したんだけど・・・なんだか逆に疑われちゃって。」
おれは咄嗟に、心にもないことを口走ってしまった。
「珊瑚の言う通りだ。おれ、ただかごめを誘惑したかっただけ。」
「ど、どういうこと?」
「あ・・・ほら。あんまりおまえが犬夜叉のことで思い悩んでるからさ、可哀想だなーって、同情しただけだ。それだけ。」
バカだよ・・・おれっ!!心にもねーことをペラペラとっ!!
かごめはおれの指を振り解いて、座りなおしておれを睨みつけた。
「酷いじゃないっ!!同情だなんて・・・あんたに同情されたくないっ!!バカにしないでよねっ!!」
「だったら、桔梗から犬夜叉を奪い取ってみろよ?そーゆう勇気もねえクセに。」
「最低ね、蛮骨!」
「おまえに言われなくても、じゅーぶん自覚してまーす。」
かごめの瞳には、おれに対する憎しみの涙が溢れていた。
突き刺すようなその眼差しは、おれの心の奥を見透かしているようにも見える。
「私・・・嬉しかった。蛮骨が私のこと、すっごく大切に想ってくれているんだなって。
蛮骨、本当のことを言って?あなたは、人の気持ちを弄ぶようなことをするような人じゃないわよね?」
おれを・・・見るな―
「あなたが、私に気づかせてくれたのよ。私の心の中に蛮骨がいたこと。」
かごめ・・・そんな悲しい瞳で、おれを見つめないでくれ―
たまらなくなって、かごめから視線をそらせた。
限界だった。
おれはまた、涙がこみ上げてきた。
「いいのか・・・おれで。おれは、おまえを幸せにしてやれね。」
「分かってる。」
「奈落との決着が着いた時、おれはおまえの側にいてやれね。」
「・・・分かってる。」
「おれは、死人だ。四魂のカケラを取られたらおしまいなんだぞ。」
「分かってるからもう言わないで。」
かごめはおれを優しく包んでくれた。
「かごめ。サヨナラも言わずに逝っちまうかもしれねえ・・・それでもいいのか?」
「言わないでって言ってるじゃない・・・・・・」
「これ以上、おまえを悲しませたくねえ。おまえにはいつも、笑ってて欲しい。だから・・・ここで、終わりにしねえか?」
「なんで・・・そんなこと言うの?」
「なんとなく分かる・・・犬夜叉とおれのことで、余計辛くなってんだろ?」
「そんなことない!蛮骨のことは好きよ。」
「おれは・・・おまえじゃねえとダメだ。けど、おまえはおれじゃなくてもいい。だからムリして、おれを好きになってくれなくてもいい。」
かごめはただおれにの胸に顔を埋めて泣いていた。
「ねえ・・・蛮骨。」
「なんだ?」
「心のずっと深いところで、あなたを想い続けててもいい?」
「おれも、心のずっと深いところで、かごめを想う。」
かごめの頬を伝う涙を、舌先で拭った。
「かごめの涙の味、忘れねえから。」
「私も、蛮骨のこと・・・絶対に忘れない。」
そう言ってかごめは、おれに口づけをした。
おれはかごめから唇を離すと、かごめの顔をじっと見つめた。
その目も、鼻も、口も、耳も―あの時感じた安らぎも、全部魂に焼き付けておく。
輪廻転生を祈ってる。
かごめの生まれた時代に生を許されたなら、おれが迷わずかごめを見つけられますようにと。
―どうか、神さま。この願いを聞き届けてください―
二人の秘めた想いは、ここで終わりを迎えたわけじゃない。
おれとかごめの関係は、形があるわけじゃないけど、魂と魂で、繋がっているんだって、分かり合えた。
「かごめ。」
「なあに?」
「気をつけて帰れよ。」
「うん。また明日ね。」
「あのさ。」
「うん。」
「明日会っても、普通にしてような。」
かごめはニコッと笑って手を振った。
「頑張ってみるーーー!蛮骨もねーっ!!」
やっぱり、犬夜叉のところに戻って行くかごめを見るのは・・・正直辛いな。
けど、これがおれたちの出した答えだから。
おれもかごめも、乗り越えていけると信じてる。
願わくば―かごめの記憶の中に、おれが消えずにいますように
クルルさんへ
蛮xかご書いてみました
いつもながらの支離滅裂ストーリーで、申し訳ないです
しかも、滅多に書くことのない一人称仕立て
蛮骨視点で書けているのか・・・不安ではありますが
稚拙ながらプレゼントさせて頂きます♪
ちなみに、このお話しの題材とした「Because of You」ですが
浜崎あゆみの曲ですv
興味があったら聴いてみてください
クルルさんの学業とサイト運営を応援しておりまーす!!
2008.04.22
聯
またもやっ!! またもや聯さんから頂いてしまいました><
皆さん蛮かごですよー! しかも蛮かご好きなら誰もがきっと一度は夢見る展開ですよね!
久しぶりに蛮骨とかごめの接吻が拝めました、ごちそうさまです♪
これからも聯さんのことは応援&尊敬させていただきます、お互い頑張りましょう^^