エリザベートの第二幕は大聖堂前のフランツの戴冠式から始まる。
これからはルキーニを演じる煉骨がキッチュを歌う場面。場当たりですってんてんな劇団(七人隊)なので、煉骨は目を血走らせ一生懸命楽譜や歌詞を追った。そもそも、圧倒的な強さを誇る傭兵集団の筈だが、今はこの公演をどうするかしか考えられない。

 

(いかんいかん、蛮骨はものすごいエゴイストと歌わないように)

 

割れんばかりの大きな拍手の中、エリザベートの第二幕が開場した。足らない人数のなかでなんとか戴冠式の場面が進みいよいよルキーニ役の煉骨による『キッチュ』が始まった。歌に不安を抱いていたが、低音の声が寄席の中で響かせている。だが、先ほど自分が思っていた通り悪い方向へ物事は進んでしまう。歌っている最中は考えていないかったのに、ついうっかり…

 

キッチュ 蛮骨は自分勝手で

キッチュ 圧倒的に強いが

キッチュ 人の言うことなんてきかない

本当の話 蛮骨はものすごいエゴイスト~

 

と、愚痴を歌ってしまった。煉骨は自分に対して何て間違いをするのだと焦っていた。とても、舞台袖のエリザベートを演じる蛮骨の顔なんて見えるものじゃない。冷静さを取り戻すために心を落ち着かせるが、気分がどんどん悪くなる。舞台袖でドレスを着た蛮骨は高笑いしている、見た目は美しく雅なエリザベートなのに、何故か氷のように冷たく鬼や妖怪に見えてしまう。蛮骨の表情が変わらず、淡々と場面が続いていく。

 

そして、今度はエリザベート役の蛮骨とトート役の悪人面の睡骨が舞台上で『私が踊るとき』を熱唱する場面となるが、煉骨が舞台袖で捌ける際に蛮骨からすれ違い振り向かれ、ニッコリと笑われた。煉骨の顔色がより悪くなる。

 

息を潜めるほど美しい蛮骨のエリザベートに観客は再び見とれた。まあ綺麗、と観客の感想が洩れるほどだ。一方、当初は観客をあまりの悪人面で恐怖に包ませていた睡骨のトートもだんだんと見慣れ、今や観客達も観客も少し余裕が出てきた。そして、エリザベートの中でも最も注目される『私が踊る時』の掛け合いの歌の場面になる。

 

「ぐへへ、二人とも歌がうめえな。」 「はー、大兄貴美しい。睡骨とトートも違和感がなくなってきたなあ。」

「本当に…見た目は王妃なのに大兄貴。」

 

手を取って 俺と踊るんだ

俺が望むときに 好きな音楽で

踊るときは 命果てるアイツを、
ひとり斬る あなたの前で

 

一人でやれるわ

お前には俺が必要なんだ

冗談じゃない
もうすぐに
斬り始めたいの
憎みだす
煉骨を~

 

「……」
「兄貴、大兄貴は面白いな。」
「いや、どうみても俺をシめ」
「さあ、おれはルドルフ役を頑張るわ。」

 

身体が凍りつく煉骨とは逆に蛇骨はルンルンと舞台へ上がった。次の場面はエリザベートの子供ルドルフが母親を慕ち、気持ちに答えず構わない母の面影を重ねる寂しい場面である。

子供役にしてはえらい大きい蛇骨がルドルフを演じ『ママ、どこにいるの?』を歌うが大舞台に声が通り、高音が無茶苦茶上手い。素直で純粋でか弱い王子の声で、観客達も涙がはらはらと止まらず、老若男女問わず小袖で涙を拭っていた。

 

一方、舞台袖の煉骨も瞼に涙を滲ませている。あの、あまり頭が宜しくない蛇骨がこんなに立派になって…と母親のような心境になり感極まったのだが、感動的な空気を蛮骨が壊した。

 

「蛇骨がこんなにしっかりして…いたっ、げっ大兄貴。」
「…自分勝手でエゴイストだから、煉骨つねりたくなった。なあ、腹減った。」
「いてて、つねないでくれ!!我慢して…痛ぇ」
「…」

 

本当は肉や米をがっつきたいが、我慢するしかないので、柄にもなく人参と胡瓜のスティックを食べ空腹を誤魔化すしかない。何故、この蛮骨様が女装なんてと思ったが意外とサマになっている。銅鏡越しの化粧した自分の顔の美しいこと。しかも、観客達には『可愛い』『美人』と誉められ、こっそりと蛮骨に大金のお捻りまで貰った。最期までこの俺が演じてやる、と蛮骨は思った。毅然とした蛮骨は次の場面『精神病院』で『魂の自由』を空腹の中で必死の熱唱により演技を光らせた。だが、蛮骨以外が捌けた舞台袖では優雅さとはかけ離れた状況になっていた。

 

 

「おぉぉぉおおお前達、何を…」
「ひいいいぃぃ!!」
「ギャー!!な、何をしてるんだい君たち…」
「何って、次はマダムヴォルフのコレクションの場面だろ?」
「ぐおお!」
「ギシギシ!」

 

煉骨達はびっくりしてしまい甲高い悲鳴を上げた。

 

次の『マダムヴォルフのコレクション』の場面の娼婦達はあり得ないほど濃い化粧、ブラジャーやショーツにガーターベルト姿で、生々しく性交を連想したかのように踊る場面。でも、それは体型が女性らしく可愛く美人な若いおなご達の場面だから成り立つもの。

 

煉骨達は銀骨や凶骨や霧骨のブラジャー、ショーツやガーターベルト姿をもろに見てしまい三人とも吐きそうになった。観客達は視覚の暴力で地獄へまっ逆さまである。顔が青白く目眩をおこした睡骨をよそに、これはいけないと煉骨や蛇骨は思い、周りを見渡したところあるのは黒子服と糸繰り人形。もう、これで誤魔化してやるしかない。一流の娼婦でエリザベートににた容姿を持つマドレーネ役は…

 

「霧骨、この白装束を着てオカメ仮面を付けてマデレーネやるんだ。それで、銀骨と凶骨は黒子の格好をきて糸釣り人形を操り他の娼婦を表現するんだ。もう、踊らずユラユラ揺れる感じでいこう。」
「あ、兄貴…それじゃ俺だとわからな」
「うるせえ、観客達に地獄の惨劇だけにはしたくねえんだよ!!」
「ひい!」
「おい、睡骨しっかりしろよ。次の場面はお前も出んだからよー。」
「ああ、なんとか。」

 

物語も佳境に入り『マダムヴォルフのコレクション』の場面。煉骨が演じるゾフィーと部下は医者の睡骨が演じるフランツを蛮骨が演じるエリザベートから目をそらさせる為、娼婦と肉体関係になる場面である。そして、フランツは娼婦マデレーネと関係を持ち、それをマダムヴォルフを演じる蛇骨と暗転で変装したルキーニの煉骨と皮肉り歌う場面である。

遠慮せず 気取らずに
どーぞ召し上がれ~
フレッシュでジューシーよ
今が食べごろ

味付けもアアア
あなたの好きに
お好み次第フフン

ウィーン1の……えー美人揃いさ
マダム・ヴォルフのコレク…フフン

マリーはにプッツン
ロミーは若けえ
タチアナはダイナマイト
お年寄りにはアアアーアアア
そしてスペシャルは、マデレーネ

どこかで見たような妖しい美しさ

(蛇骨歌詞覚えてねえし、間違えるのか!?)

狂言師ルキーニ演じる煉骨はガタが外れた顔をした。あまり歌詞を覚えていない蛇骨とこれからデュエットするのに不安である。蛇骨もゴメーンと舌を出すが舞台の銀骨達を見ると目を見張った。

煉骨と蛇骨の状況に観客は気付かず凶骨や銀骨が操る娼婦役の『糸操り人形』に非常にびっくりしていた。凶骨や銀骨が好き勝手に『糸操り人形』を振り回すので天井から床をぐるんぐるん人形が高速で回っている。煉骨と蛇骨は舞台上で呆気に取られて身体が固まった。

(いやいや、それは踊りじゃなくてヨーヨーじゃ)
(兄貴、た、確かに娼館の場面だったよな?)

銀骨と凶骨の下で、霧骨演じるマデレーネが白装束でオカメ姿でユラユラ揺れるが、身長がかなり小柄な霧骨が演じるので薄暗い舞台で演じるので、オカメの首塚に見えてくる。一部の観客や霧骨の近くにいるフランツ役の睡骨は激しく怯えている、睡骨の役柄はこんなマデレーネと肉体関係を持つのだから恐ろしい。何が美人揃いか地獄の手前である。場面は進んでいくので、勢いで凌ぐしかない。いよいよ、煉骨と蛇骨の重唱が始まった。

 

どんな偉い~ お方でも
男はオトコ
食欲が
満かたされたらあああ
たんまり お代
いかただいてる 帰るの!!

 

最後は煉骨と蛇骨でぴったりと正確に重唱し上手く決めた。よく、あのグダグダな状況から元に戻ったな、と冷や汗をかいてしかめっ面の煉骨と蛇骨は思った。割れんばかりの拍手の中、そして、煉骨達が急いで舞台を捌けた。暗転を利用して睡骨は悪人顔になりトートに化けた。

 

次の場面は蛮骨演じるエリザベートが体調を壊して倒れる上に、夫のフランツが不倫を知る場面。トートが弱ったエリザベートに追い討ちをかける場面だが、蛮骨演じるエリザベートは一筋縄ではいかない。蛮骨はドレスを着て目映いほど美しいのに指を鳴らしえらい怒っていた。睡骨はトートを演じるので今度は悪人顔の睡骨へ変化したが、蛮骨の様子に呆気にとられた。

 

「おい、睡骨!!」
「えっ、今は舞台上だ…グハアッ!!」
「ふざけるな、なんであんなオカメ顔の不細工女と不倫だって!?この目鼻立ちがハッキリした蛮骨様という美し~い妻がいながら…物足りなのか、下手なのか!?腹減ってるのにイライラさせるなよ。なあなあ、マデレーネってこの蛮骨様と似てる設定だよな、どこが似てるんじゃあああ!!」
「ひい!!」

 

蛮骨は王妃役なのを忘れ、機関銃の如く台詞を吐き、腕を振り上げトートに化けた睡骨を殴った。蛮竜振り回す豪腕によって殴られた睡骨は投げ飛ば出され、大道具の箪笥に頭をぶつけ白目を向いて伸びてしまった。観客席は揺さぶられるほどの大爆笑で、舞台袖の蛇骨もゲラゲラと笑っている。だが、煉骨達は血が吸い上げられたように静かに固まっていた。

 

寒気がする煉骨はまた額に汗をかき台本をおっていた。この場面はエリザベートが体調を壊し自ら命を絶つと口にし、トートとの掛け合いの後、夫フランツの不倫を知り嘆く場面である。台本のエリザベートはダイエットをして細身で華奢、こんな身の毛のよだつ程に喧嘩早くない、というかこんな指を鳴らし血の気盛んで赤裸々に言う高貴な女性なんて嫌すぎる。

 

しかも、自ら蛮骨様と言い始めて、これでは戦場の蛮骨である。だが、観客にはバカ受けで『蛮骨やっちまえー!!』『エリザベートちゃんカッコいい!!』『いけいけー!!』と、歓声が聞こえてきた。これは興行レスリングではなかったはず…煉骨は心の中で嘆く。盛り上がりが最高潮を迎え突っ伏した睡骨の傍ら、蛮骨は英雄となり場面が終わった。身体が大きい凶骨や銀骨は急いで伸びた睡骨を回収した。

 

睡骨が失神している間、煉骨の的確な指示のもと場面は順調に進んでいく。舞台上で煉骨演じるゾフィーが亡くなり、蛇骨演じるルドルフもマイヤーリンクで自殺をし、よりいっそう蛮骨演じるエリザベートが悲しみくれ人生のどん底に堕ちていく。物語の終盤に入り物語の最終地点が近づいてゆく。観客達の涙は止まらず、すすり泣く声がよく聞こえてくる。

舞台袖で蛇骨は睡骨の身体をゆさり起こしていた。いよいよ、終盤のエリザベートもフランツの、見せ場『夜のボート』の場面。なんとか、起こさなければ舞台が成り立たない上に悪人顔で気を失っているので、フランツの時の顔に戻ってもらわないと困る。そして、睡骨はゆっくりと重い瞼を開けた。

 

「あ、あれ…ここは?」
「睡骨起きたか。次が夜のボートの場面でフランツだから医者の顔に戻らねえと。」
「……ああ、そうだったね。」

 

満身創痍の睡骨はよろよろによろけながら舞台上へ上がる。役柄ではオーストリアの皇帝なのに今やその面影はない。一方、エリザベートを演じる蛮骨は空腹で苛立ちで少しのことでイラっとしていた。こんなに美しい役柄なのに、煉骨は恐ろしく感じ近づけやしない。やはり、お香だけでは腹の足しにならない。

『夜のボート』の場面は長い年月を経て、フランツとエリザベートと孤独と愛の限界と互いの目指す道程が異なる悲しい場面である。この場面のエリザベートは黒のレースドレスを着ているが、じっと見つめる姿がいっそう美しさが引き立つ。フランツ役の睡骨が歌っているのを見守っていた。

 

ささやかな幸せをつかみたい
人生のゴオルは寄り添えたい
一度 私で目で 見てくれたなら
……

……

わかって欲しい 君が必要だよ

 

優しい顔した医者の睡骨が語りかけるかのように歌うので、前列の観客の瞳には涙が溜まり、不覚にも舞台袖の銀骨達も感極まり泣いている。舞台上の蛮骨もぼんやりとした姿で歌い始めた。

 

夜の湖を行く 二隻の舟のような私たち
近づくけれども 腹は減るばかり
それぞれのゴオルを目指す

 

一部の歌詞に蛮骨の本音を歌ってしまったが、じっと自信ある気高い眼つきに、睡骨も強く目を交し合い、まるで二人の心中をわかりあうように舞台は進んでいく。まるで本番さながらの演者のように、観客達を二人の世界に導いていく。

 

だが、蛮骨が演じるエリザベートはすべての空気を壊してしまった。鬼気迫る美しく塗られた顔が睡骨に近づいた。咄嗟のことに睡骨は再び戸惑うが、いきなり蛮骨が胸ぐらを掴んできた。舞台袖にいた煉骨はこんな動作があったのか、再び台本の流れを追った。

 

「冗談じゃない、この俺の考えをわかるものなんていない!!」
「えっ、台本通り…」
「伊達に七人隊の首領をやっちゃいねえんだ。こんなことで負ける七人隊じゃない、蛮竜振り回して、敵にバスティーユで白旗を上げさせる!!」
「ばすてぃいゆ?」

 

(いやいやいやいや、白旗ってエリザベートはそんな物語じゃねえよ!!大兄貴、バスティーユはエリザベートじゃなくてベルばらじゃあああ、感動をかえせぇぇぇ!!)

 

台本を筒のように握りしめると、煉骨が取り乱し酒乱のように暴れ始めた。凶骨が戦場で暴れるように荒れに荒れている。普段、冷静沈着で緻密な煉骨の突然の奇行に蛇骨達も呆気に取られる。

 

「あ、兄貴落ち着いてくれ!」
「落ち着け、ギシギシー!!」
「うるせー、くそったれ段取り通り進みやがれ!!」
「兄貴…こんな取り乱すなんて。」
「うぉー!」

 

煉骨の心配をよそに最期まで蛮骨の独壇場は続いたが、観客達はなんと涙、笑いながら満場総立ちで七人隊の『エリザベート』に賛辞を送った。その後、どこでなにを感動したのか依頼主が大号泣で報酬をかなり弾み、戦場で報酬を得る以上にかなり良い報酬を得た。

 

 

そして、この『依頼』おかげで、七人隊の運命は変わってしまった。

 

 

 

それから、しばらく経ち犬夜叉とかごめの尽力で『奈落』を倒し、元々は死人だった傭兵集団『七人隊』もこの世で生き延びることができた。だが、血なまぐさい当時と状況がかなり変わってしまった。

 

「殺生丸様、りんは七人隊の舞台を観に行きたい!!」
「くだらぬ」
「いやいや、でも無茶苦茶おもしろいみたいですよ、七人隊のアイーダ。この邪見も観に行きたいです!!」
「そうそう、蛮骨様のアイーダが凄く綺麗で蛇骨様のアムネリスが美しいのです。」
「…」

 

『七人隊』は人気演劇集団となっていた。元々、顔立ちが整っている蛮骨や蛇骨を主役にし各地で興行し練り歩いた。圧倒的に蛮骨の舞台映えする容姿に老若男女問わず贔屓、報酬やお捻りが増えた。各地で蛇骨が良いと言った紅や香料が売れて最近では蛇骨が監修した紅まで大流行である。

 

「珊瑚ちゃん、あの蛮骨が着ている小袖はレースや石が縫われていてかなり凄いわよ。」
「凄いよね、煉骨はどうやって縫い合わせたんだろうね。」
「しかも、火力で使えるドライヤーがコテが大名の奥方に受けてるらしいわよ。」
「けっ、くだらねー。」
「何を言うか犬夜叉。かなり七人隊は商売が上手ですよ。情報が早い奥方達に蛇骨の紅や霧骨のお香を売ればかなり利益を得ます。」

 

煉骨は手先がかなり器用なので『エリザベート』をキッカケに舞台衣装を凝り始めたが、見たことのないサテンやレース等のドレスを作り女達が虜になった。元々、頭が良いので利益が出るように算盤を弾き、舞台の片手間に縫い物教室まで開いている。自ら作り出した火力家電は大名の奥方に飛ぶように売れ、霧骨も顧客に応じた香りを作るようになり上手に商いを始めた。

 

「ほほお、お前達凄いの。」
「はい、楓さま。私は薬草も煎じることができますし。」
「ギシギシ、子供は可愛い」
「うぉー!!」

 

あまり商売ばかりだと嫌味ったらしいのと世間への印象を良くするため、興行が休みの時は『保育所』を始めた。子供らが体調を壊したら睡骨が薬を煎じ、凶骨や銀骨は子供達の良い遊び相手で、三人共子供を可愛がった。そして、七人隊はその勢いで江戸時代まで商業演劇の先駆者として生き表彰されたが、大鉾の蛮竜はいつまでも侍大将の城で家宝として飾られ続けた。

<終>


小夜さんより、大作を頂いてしまいました~!!
我が家のパロディものに触発されたとのことで、宝〇の「エリザベート」をベースに書いてくださりました。
七人隊が旅の一座や芸人だったらきっとこんな感じですよね(笑)
後日Pixivの方にもUPされる予定との事ですので、このお話のご感想などはそちらへ^^
小夜さん、どうもありがとうございました!

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