Happy birthday

「なぁなぁ煉骨の兄貴ぃ、知ってるか?」
蛇骨に肩を叩かれ、新聞を読んでいた煉骨は顔を上げて振り向いた。
「何をだ?」
「今日が何の日か」
問われて、煉骨は口元に手を当てながら眉をひそめる。
「……今日? 何かあったか?」
「あるある、すっごく大事な日なんだぜ」
記憶を手繰る煉骨だが、やはり思い出せず、蛇骨に目を向けた。
「…何の日だ」
降参する煉骨にため息をつき、蛇骨は人差し指をぴんと立ててみせた。
「蛮骨の兄貴の誕生日!!」

「初耳だぞ」
煉骨を始め、睡骨や霧骨たちも同様に頷いている。
蛇骨は得意げに胸を張った。
「俺、前に大兄貴に教えてもらったもん。間違いねぇ!」
「……そういうことはちゃんと覚えてるんだな」
ぼそりと呟く霧骨に蹴りを入れ、蛇骨は目を据わらせる。
「うるせぇよ。それより、みんな薄情だよなぁ。誰も兄貴の誕生日知らなかったなんて」
「だって……なぁ」
皆は頭をかきながら顔を見合わせる。
はっきり言って、誰も興味がないのだ。
蛮骨に限らず、誰かの誕生日が気になって、改めて訊いたことなど一度もない。
「煉骨の兄貴も、一体なんのためのスケジュール帳だよ」
机の上に無造作におかれた手帳を指差され、煉骨は半眼になった。
「…それはスケジュール帳じゃない、家計簿だ」
彼の言をさらりと無視し、蛇骨は目を輝かせる。
「なあなあっ。せっかくだから、今日は兄貴に何かプレゼントして、祝ってやろうぜ!」
「プレゼントぉ? って、何を…?」
思い切り胡乱な顔になる睡骨。その横で、霧骨も消極的な様子だ。
「普通に、『誕生日おめでとう』って言っときゃ良いんじゃねぇか?」
「だめ! 年に一度しかない大切な日なんだから、パァーっとやろうぜ!
ちょうど大兄貴は夕方まで帰ってこないし。な? 煉骨の兄貴ぃ」
しなだれかかる蛇骨を鬱陶しげに払いのけ、煉骨は渋い顔で唸る。
蛇骨は一度言い出したらとことん引かないのだ。
誰も賛同しなければ、七人隊の大事な貯金を勝手に持ち出して無駄遣いに走りかねない。
それを阻止するためにも、うまく監視しておかなければ。
蛇骨の要望に答えなおかつ出費を小に抑える手立てを、煉骨は考える。
そして、一つの答えに行き着いた。
「ケーキだ」
「んん?」
煉骨の口から発された言葉に、五人は目を(しばた)いた。
「ケーキを作ろう。うん、それがいい。丸いのを一個作れば皆で食えるし、銀骨冷蔵庫の中に材料があるはずだから、出費も少ない」
「おおっ! ケーキかぁ!! 良いなそれ、うん、兄貴良い考え!!」
「だが、手作りケーキなんて作れるのか?」
怪訝(けげん)に問う睡骨に、煉骨の目がきらりと光る。
「俺に出来ないことはない!」
それを聞いた凶骨と霧骨は、部屋の隅で目を据わらせた。
「言い切った…」
「おう、言い切ったな…」
「大兄貴が帰ってくるのは夕方だ! それまでにちゃちゃっと作りあげるぞー!
睡骨、霧骨、凶骨! お前らは部屋の飾り付けに取り掛かれ!!」
目的がはっきりすると俄然何かのスイッチが入る煉骨に、指名された三人は肩をすくめて渋々返事をした。

「ただいまー」
夕方を過ぎて夜になっている。
早足で蛮骨が帰ってくると、部屋の中は真っ暗だった。
「れ…? みんな出かけてるのか?」
首を傾げながらも手探りでスイッチを探し、明かりをつける。
その瞬間、ぱんっと何かが弾けた。
「うわっ!!!」
明かりの下で目を向く蛮骨を、今までひたすら待っていた六人が出迎えた。
各々(おのおの)の手には、紐を引かれたクラッカーが。
「大兄貴帰ってくんの遅ぇよ~」
「まったくだ。何時間ソファーの影にうずくまっていたことか」
腰や肩を叩く煉骨たちに、蛮骨は意味が分からず目を白黒させる。
髪にかかる紙テープや紙ふぶきを払い落として、彼は怪訝な顔をした。
「いったい何の騒ぎだよ。俺がどうかしたのか?」
「大兄貴、今日誕生日だろ? だから、ほら!」
蛇骨が、飾り付けられた部屋の中心にあるテーブルの上のケーキを指し示す。
「え……誕生日?」
瞬いて、蛮骨は壁の暦を見る。
「あ、本当だ」
「大兄貴…自分でも忘れてたのかよ」
席に座った蛮骨は、感心した風情でケーキを覗き込む。
「これ、作ったのか?」
「ああ。俺と煉骨の兄貴でな!」
包丁を持ってきた煉骨が、ケーキを切り分けていく。
「大兄貴、どれにする?」
「……それの、半分でいいや」
蛮骨は見た感じ一番小さいのを指差す。その目は、どこか気まずげだった。
「なんでだよ! 大兄貴の誕生日祝ってるんだから、一番でっけぇの食えばいいだろー!」
大きなかたまりを皿に盛ろうとする蛇骨を、蛮骨は止めた。
そして、おずおずとその顔を見上げる。
「あ、あのさぁ。すごーく言いにくいんだけど…。俺、ケーキって…苦手なんだよ」
「へっ!?」
蛮骨の思いがけない告白に、一同唖然とする。
特に精魂込めて作っていた煉骨と蛇骨は、石化していた。
「なんつぅかその……生クリームとかが、ちょっと…だから、一口、二口分くらいで良いから」
申し訳なさそうに視線を下げる蛮骨に、蛇骨は固い笑いを返した。
「へ…へぇー、そうだったんだ。良いよ、一口でも二口でも、食べてもらえたら嬉しいからさ」
本人の要望に従ってケーキの一切れをさらに半分にし、皿に盛り付けて差し出す。
かなりの量が残ってしまったが、まあこれは残りの六人で後で美味しく頂こう。
「じゃ、いただきます」
フォークに乗せたケーキを口に運び、蛮骨は一口、食べた。
「……」
「どうだ大兄貴、美味い?」
「………」
「大兄貴?」
「……しょっぱい」
「…は?」
フォークを静かに置いて、蛮骨は煉骨と蛇骨をまっすぐ見上げた。
その表情は、とてもじゃないが美味しいとは言っていない。
「このケーキ、何でこんなにしょっぱいんだ?」
「しょっぱいって…えっ?」
目を丸くした煉骨も、ケーキを一口食べる。見る見るうちに、彼の唇が引き結ばれていった。
「…まず」
口から出すことも出来ず、ひとまずそれは喉の奥に追いやる。
水を口にして、煉骨はぎろりと蛇骨を睨んだ。
「てめぇ、何を入れた」
「えっ!? 何って、兄貴が書いた作り方の通りに材料入れて、作ったぜ」
「それでどうしてこんなに不味(まず)くなる! ええい、使った材料を持って来い!」
むっとしながら、蛇骨は言われた通りにする。
テーブルに並べられた材料は、一見まともなものばかりだ。
しかし、霧骨が、その中の一つに目を止めた。
「おい、その粉は?」
「砂糖に決まってんだろ」
「本当に砂糖かよ?」
片眉を吊り上げ、霧骨は粉を少しとって舐めてみる。
「……塩だぜ、これ」
「そんな! まさか……!」
頭を抱え、蛇骨が愕然とうめいた。
「てめぇっ…、砂糖の変わりに、大量の塩を混ぜたってのか!!!ここにちゃんと『 Salt 』って書いてあるのにっ!!」
「英語なんか読めるわけねぇだろーっ!!!」
くわりと牙を剥いて、蛇骨は半泣きで部屋へ逃げていった。
残った者たちは青ざめた顔で、ケーキを見下ろしている。
「……あ、あのさ。皆の気持ちは十分伝わったから。そんな、気にすんなよ。あはは…」
何とか励まそうとする蛮骨も、笑顔が無意識に引きつる。
仲間たちも同様の顔をし、誰からともなく食器を片付け始めた。
「……資源は大切に。このケーキもこのまま捨てるのは忍びない。凶骨、お前が処分しろ」
「えっ、俺一人で食っていいのか!?」
渡されたケーキを嬉しそうにかき込む凶骨を見上げながら、おまえには味覚が無いのかよ、と遠い目になる煉骨であった。

「蛇骨、入るぞー」
部屋の扉をノックする音が響いて、蛇骨はのろのろと顔をあげた。
部屋に入ってきた蛮骨は、ベッドに突っ伏した彼に思わず苦笑する。
「まだ落ち込んでるのか」
「だって俺、大兄貴の好みも知らなかったし、おまけに砂糖と塩を間違えるなんていう致命的な間違いまで犯しちまったし…」
「凶骨は美味そうに食ってたぞ」
「あいつが食ったって意味ねぇだろ! 俺は大兄貴が食べる姿を想像して作ってたのに!!」
枕に顔を埋める蛇骨を目をすがめて眺め、蛮骨は面白そうに笑う。
「ま、あれが初めての料理だったんだろ? 次、頑張れ」
「その時は誕生日じゃねぇけど、大兄貴、食べてくれるのか…?」
「もちろん」
でも生クリーム系統は勘弁だ。
そう告げると、やっと顔を上げた蛇骨は赤くなった目でにっこりと頷いた。
「なら俺、がんばる。…あ、大兄貴っ! 忘れてた!」
「ん? 何を…」
わずかに首を傾ける蛮骨に、蛇骨はぎゅうっと抱きついた。

「誕生日おめでとう!!」

<終>

1

蛮誕企画さまへの捧げ物でした~^^
初・現代版。いろいろと楽しみながら書けました♪

【読み物へ戻る】