エリザベートはタイトルロールである皇后エリザベートと死神トートの波乱万丈の数奇な生涯を描いた作品である。戦国時代に何故十九世紀が舞台の演劇をと思うが気にしない。

生き返ってすぐに煉骨が任務内容をよく見ずに破格の依頼料に引かれ受けた依頼だが、なんと人気舞台『エリザベート』を満員御礼の中、キャンセルになった農民劇団の代わりに演じて欲しいと言うもの。奈落によって四魂の欠片を与えられ、生き返って早々の仕事の内容を聞いて皆ひっくりかえってしまった。だが、金を受け取ってしまった以上もう恥をさらしてやるしかない。役柄はなんとか決まったものの蛮骨はふてくされていた。

 

トート閣下 睡骨(悪人面)
エリザベート(シシィ) 蛮骨
フランツ 睡骨(医者)
ルキーニ兼ゾフィー 煉骨
マダムヴォルフ兼ルドルフ 蛇骨
その他の役 銀骨 狂骨 霧骨

 

「馬鹿野郎、なんで腕っぷしの蛮骨様がエリザベートを…」
「いや、でもよ大兄貴…超キレイ!!」
「ギシギシ!!」

 

顔立ちが整ったイケメンの蛮骨に蛇骨が舞台メイクを施したらあっという間に美しい少女が完成された。おまけにドレスは女好きの霧骨がより女性らしく見えるよう本家さながらなのコルセット、レースやハイヒールの思案し見本を描いた。

 

手先が器用な煉骨が銀骨を改造する容量で、お針子を夜なべし豪華なドレスや蛮骨のおでこの十字を隠す王冠などを幾つか作成し、その序でに銀骨を改造中にでた余った部品で火力で使えるドライヤーやコテまで作ってしまった。蛮骨の髪は元々長く美しく艶やかなので、そのまま三編みをほどいて巻き舞台に出ることにした。苦虫を噛み潰した表情の蛮骨は納得していないようだ。侍大将のところへ行って、大鉾蛮竜を取り戻したいのに、と蛮骨はヤキモキする。

 

「だいたい、俺より蛇骨が演じた方が良いだろう?」
「大兄貴~俺はそんな長いセリフ覚えられねえよ。ああ、睡骨…」
「なんだ、そんなに変か煉骨?」
「いや、あの気にするな。」

 

行き当たりばったりの劇団なんで、化粧云々は言っていられない。エリザベートでの死神トートは青白い顔をしているが、顔が元々恐い悪人面の羅刹もとい睡骨がトートの化粧を施すと、ヒールレスラーにしか見えない。煉骨や蛇骨はトート閣下ってこんな顔だったかと資料を見直すが仕方がないので、薄く蛇骨が化粧をしトートらしい鬘だけ被って出ることした。煉骨は劇中でエリザベートを殺す悪人ルキーニを演じるが、その後エリザベートの姑ゾフィーを演じるので人の化粧については何も言えない。
ない

 

ミュージカルエリザベートのプロローグはルキーニの裁判のシーンのやり取りから始まる。ルキーニ役の煉骨はこんなことをしないといけないなんて、と舞台袖で目を潤ませていた。だが、元々は自分の早とちりで引き受けた仕事、気分は沈んでいられない。

 

何故、毎晩同じ質問ばかり100年間も!!俺はとっくに死んだんだ!

ケツでも掘ってやろうか、裁判官殿!!

 

見たことがないくらい雄叫びをあげる煉骨に、舞台袖にいた蛮骨達は視線を上げ目を見張っている。あの、冷静な参謀である煉骨が真面目に演技するので、蛇骨は肩を揺らした。

 

「あ、兄貴がケツって…」
「演技うめえな。」

 

 

くすくすと、笑いが止まらない。だが、いつまでも笑っていられない。あっという間にプロローグの全員が舞台にでる場面になり七人隊を全員が舞台上に上がり熱唱し、拍手喝采でプロローグが終わった。そして、第一幕が始まり、次は蛮骨が演じるエリザベート(シシィ)がでずっぱりのシーンとなる。片田舎で貴族だがお転婆少女として育ったエリザベートことシシィは、親戚同士の集まりから逃げるため、父(銀骨)と歌でやり取りをする場面。蛮骨が演じるエリザベート(シシィ)の可憐さで観客は目をときめかせ、凄い綺麗と言う声も聞こえる。不機嫌だった、蛮骨も誉められたると気分がのってきた。可愛らしい蛮骨が演じるエリザベート(シシィ)が舞台上で弾んで歌っている。

 

お昼には 侍大将が集まる~
パパは言うこと あるらしい~
堅苦しい場所から 暴れまわりたいわ~
周りの目を盗み 蛮竜をふるの~
パパ 一緒に連れて行ってよ~
駄目だよ(ギシギシー)
刀で争うのが 全部好き~
今度も無理だ(ギシギシシー)
夢で首をはね~て 戦のものまね~
パパみたいに なりたい~

 

舞台袖に引いた煉骨は額に汗をかき台本をおっていた。作中のエリザベートは確かにお転婆な役柄だが、こんな死線を潜った貴族の娘ではなかったはず、と焦る。これではただの傭兵集団七人隊である。でも、観客達は蛮骨の美しさと普段から想像できない可憐さに目を奪われ惚れ惚れとしている。

 

「エリザベートのパパみたいにってこんな物騒な歌詞だったかよ。これじゃあ、ただの蛮骨…」
「まあ、兄貴いいんじゃねえ。観客は凄く真剣に観ているし…つぎは、トート役の睡骨がでるぞ。」

 

次の場面は、綱渡り中に足を滑らせ高所から落下したエリザベート(シシィ)の意識が無くなり死神トートと初めて会う場面で、注目される場面の一つである。意識のない蛮骨の隣には、恐い顔をしたトート役の睡骨がいた。舞台袖の蛇骨や観客達も舞台上の蛮骨の寝顔にうっとりするが、隣に鎮座する睡骨演じるトートを見ると心から怖いと思ってしまう。しかし、睡骨が歌い始めてから状況が変化した。

 

今こそ黄泉の世界へ迎えよ~
その瞳が胸を焦がし 眼差しが突き刺さる~
息さえも俺を捕らえ 凍った心溶かす~
ただの少女の筈なのに 俺の全てが崩れる~
たった一人の人間なのに俺を震えさせる~

 

心が安らぐ甘い歌声に観客を始め舞台袖にいる煉骨達の胸に突き刺さった。観客はみな舞台上の睡骨を凝視し身体と耳を音の波に身を任せている。歌の力は凄く観客の集中力が一気に上がった。普段、騒がしく暴れまわる凶骨、落ちついた銀骨、いつもひねくれた物言いばかりの霧骨もじっと集中する。

 

さすが、歌の力は凄いなと思っていたが、煉骨達もゆっくりできない。暗転を利用して睡骨は優しい医者の顔に戻り、エリザベートの夫フランツに化けた。そして、フランツとエリザベートの華やかな結婚式の場面になりそれも終わると、今度は煉骨が演じるエリザベートの姑役のゾフィーの鬘を被った煉骨の一番目立つ場面となる。

女装するとはいえ蛮骨をいびれるなんて楽しみと、内心踊っているが眉毛を濃く塗った自分の女装の恐ろしさに引いてしまう。だが、一緒に女官として舞台上にでる銀骨、狂骨、霧骨の女装を見て戦慄が走った。確か女官の役の筈なのにそこには醜形や妖怪しかいない。

 

「に、女官だよな?」
「ギシギシ」
「うぉー!!」
「ぐへへっ」

 

自分の女装も誉められたものではないが、もっとえげつない。しかし、もう時間がないので気を取り直し舞台上に毅然とハプスブルグ家唯一の男と言われた姑ゾフィーを煉骨は演じるが、観客の目線は全て後ろについてくる丈が長いワンピース姿の銀骨、狂骨、霧骨に奪われた。あれはなに、妖怪かなとざわついている。

だが、徐々に煉骨演じるゾフィーの怪演と蛮骨演じるエリザベートによって空気が変化していく。この場面はエリザベートの寝起きにゾフィーが女官を連れて苛める場面で、ゾフィーが有利の場面だった筈だが…作中とは言えごちゃごちゃ言われるのは蛮骨は嫌がった。

 

なんて寝坊なの
まだ5時だろゾフィー
怠けては駄目よ
だから、疲れが煉骨
毎朝5時きっかりに 全て始めるのよ
だから、言われたんだよ ゆっくりお休みなさいと
昨夜のあなたは ぐっすり寝込んだそうね

聞いたのよ
うっせえな、煉骨
私には隠さ…えっ?
煉骨の癖に
強い絆で
ぶっ飛ばす
結ばれて…

 

結局、いびり倒す場面が台無しとなりエリザベートによる反撃が始まり、せっかくの『皇后のつとめ』の場面が蛮骨の務めの場面となり、観客達の爆笑に覆われなんとも楽しい場面になった。煉骨の顔や身体には紫色のアザができてボロボロになっている。そして、腕っぷしの強い蛮骨はエリザベート役なのを忘れ、勢いに身を任せフランツ役の医者の睡骨の胸ぐらを掴んだ。自分の母親は自分でどうにかしやがれ、マザコン!!と動きにくいレースのドレスで一本背負投を決めた。だが、その弾みでドレスがビリリリと破れてしまい、作成者の煉骨が白目を向いて顔色も悪くなった。

 

観客からは割れんばかりの拍手の喝采で事なきを得た。そして、次は蛮骨演じるエリザベートが『わたしだけに』を心身ともに追い詰められて歌う場面となる。観客らの涙を誘う場面である。舞台袖へ退いた煉骨や睡骨がじっと見守っている。本当に化粧をした蛮骨は美しく神々しく本当に王妃に見える。顔を腫らした煉骨と背骨を地面に強打し節々が痛む睡骨もじっと見守る。

 

イヤよ~  大人しいお妃なんて
なれない~  可愛い人形なんて
あなたのものじゃないの  この私は~

「よし、段取り通り進んでいるぞ!!」
「本当に王妃みたいだ。」

 

侍大将を 蹴飛ばし登るの~
スリルに耐えて 蛮竜振り回し
戦いの旅に出る 私だけ
命令を押しつけられたら ぶっ飛ばすわ 私~
捕まえるというのなら 首をはねるわ
鳥のように 解き放たれて
命 散りし 戦場 飛び立つ
でも見失わない 私だけは~

 

嫌よ 人目に首をさらすなど
戦う相手 私が選ぶ
誰のものでもない この私は
ありのままの私は ここにはいない
誰にも束縛されず 蛮竜と共に生きるの~

 

「…」
「へ、へえ」

舞台袖から煉骨は顔をブンブン振っている。優しい医者の睡骨は顔をひきつらせている。これでは王妃ではなく素性知れず一人で旅をしていた時の蛮骨だ。そして、蛮骨の心の底からの熱唱で第一幕が終了し幕は閉められた。

 

そして、第二幕まで小休憩が挟まれた。疾風のように慌ただしく、一切合切の劇団なので右へ左へ大慌てだった。

 

蛮骨はあまりに腹が減りふらふらと外の屋台で、褐色になった熱々な焼きそばを食べようとしていた。だが、睡骨から臭うし王妃は焼きそばなんて食べないからやめてくれと言われ、蛇骨からも大兄貴化粧を直しする時間がねえ、と必死の形相で言われしぶしぶ従った。その為、霧骨が調合した甘いお香で蛮骨の空腹を誤魔化した。一方、煉骨は蛮骨か舞台上で暴れて、裂けてしまったドレスを細かく丁寧に縫い直していた。

 

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