心得

「俺と真骨が脇から城を攻める。お前たちは正面で戦って、敵の気を引いてくれ」
首領の指示に、仲間たちは頷いた。

今、彼らは戦の真っ只中にいる。
敵の総大将は天守にいるのだが、敵方の攻撃が激しくてなかなか城に近づけずにいた。
そこで、蛮骨と真骨が別行動をとって城攻めを行うことになった。
「外にこんなに敵がいるんだ。城の中は今、手薄だろうさ」
脇の山道から城の様子をうかがう蛮骨の言葉に、真骨は渋い顔をする。
「そうなのか?だったら、俺も外で戦いたかったなぁ」
「お前は小柄だから、こういう役割の方が合ってるんだって。……よし、行くぞ」
見張りの兵が油断した隙を見計らって、蛮骨が駆け出した。
真骨も表情を引き締め、それに続く。
間近に接近した二人を見つけた兵が「あっ」と声を上げたが、その声もすぐに刃の餌食となった。
「大将は一番上の階だよな」
「ああ。行くぞ」
狭い廊下と急な階段を進み、二人は大将のいる部屋を目指した。
途中、多くの敵兵と行き会ったが、みんな蛮竜に瞬殺されていった。
天守に着くと、武将たちに囲まれた中央に、大将と思しき男がいた。
「ほう、ここまで来おったか」
「あんたが大将だな。首、もらってくぜ」
二人が得物を構えると、大将を守るように武将たちが立ちはだかる。
「お館さまには指一本触れさせん!!」
一斉に切りかかる敵を、蛮骨と真骨はことごとく打ち倒していく。
あっという間に、辺りは血の海になった。
一人残った大将は、一つ息をつくと顔を上げて二人を見据える。
そして刀を抜き放つと、蛮骨と切り結んだ。
真骨は邪魔にならないよう、少し離れてそれを見ている。
(この戦もこれで終わりだな。あーあ、なんか殺し足りねぇ……)
視線を外に移す。
天守からは、下で米粒のように小さい人間たちが戦っているのが見えた。
(兄貴たちはどこだろう……)
しばらく探しているうちに、後ろでの蛮骨の戦いは終わっていた。
「おい、真骨」
「ん?終わった?」
呼ばれて振り返ると、首をはねられた総大将が転がっている。
蛮骨はその首を布でくるむと、追いついてきた味方の兵に渡した。
「本陣へもっていけ」
まだ若いのだろう。首を渡された兵はひくりと息をのんだ。
「わ、私が持っていってもよいのでしょうか」
「かまわねぇよ。俺はまだすることがある」
若い兵は頭を下げると、足早に城の階段を下りていった。
「大兄貴、することって?」
「ああ、お前も先に行け。大将を倒したら、城を焼き払えって言われてるんだ」
「そうなんだ…じゃあ俺、先に行ってるからな。大兄貴、一緒に焼かれたりすんなよー?」
言うと、蛮骨が軽く小突いてきた。
真骨はにっと笑うと、城を抜けるべく下へと下りていった。

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廊下を引き返す真骨の耳に、小さな声が届いた。
「なんだ…?」
不審に思って足を止める。声は、脇の部屋から聞こえてくるようだ。
まだ生き残りがいるのか。
真骨は武器を構え、部屋の戸を開けた。
すると、暗い部屋の中に、小さな影があった。
「子供…?」
小さな男の子供が、座り込んでしゃくりあげている。
どうしてこんな戦場に子供がいるのだろう。辺りには女も誰もいない。
「逃げ遅れたのか……」
真骨は困った。
ここにいるということは、これは敵方の子供だ。
しかし、元来子供好きである真骨は、無抵抗な幼子を殺すのも気が引ける。
とりあえず、その手を掴んで立たせた。
「もうすぐ火が付けられるから、逃げるぞ」
「お、おねぇちゃん…だれ…?」
「そんなのは後だ。俺について来い」
真骨は子供の手を引いて走った。
しかし、子供の足は遅く、イライラとした真骨は結局子供を抱え上げて城を出た。
外に出て振り返ると、天辺から炎があがっているのが見えた。
もうじき蛮骨も出てくるだろう。
「ここにいたら危ねぇな」
火の勢いが強まった時のことを考え、真骨は子供を抱えたまま離れた林の方へ非難した。
ようやく地に下ろしてやると、子供は不安げに辺りを見回す。
時折響く大砲や鉄砲の音に、びくりと身をすくませた。
これからどうしようかと、真骨は首をひねって考える。
いつまでもここにいるわけにもいかない。かといって、仲間のもとに連れて行くこともできない。
「そうだ、お前の名前は?」
「小太郎…」
「小太郎か。ちょっと待ってろ、すぐに安全な場所へ…」
言いかけて、真骨は目を見開いた。
反射的に得物を薙ぎ払う。
飛来した矢が、叩き落された。
木々の陰から、無数の敵兵が姿を現す。
「お前ら…!戦は終わったんだぞ!お前らの負けだ!!」
「そんなの関係あるか!女の一人も殺さねぇと、報われねぇ…っ」
「そうだ、女くらい俺にも殺れる!!」
得物を構えて、真骨は叫んだ。
「女だからってナメんなよ!!」
斬りかかろうとするが、再び無数の矢が襲い掛かってきた。
「ちっ…」
小太郎を庇って矢を払っていた時、焦げ臭いにおいが漂っているのに気付いた。
さっと視線を走らせると、視界に燃え盛る炎がある。
いつの間にやらそれは、すぐそこまで迫っていた。
思っていたよりも炎の広がりが強かったらしい。
炎と敵兵に挟まれ、真骨は焦った。
このままでは小太郎だけでなく、自分も危ない。
(大兄貴……!)
助けてくれ、と心の中で叫ぶ。
そのとき、頭を抱えて怯えていた小太郎が、ダッと走り出した。
「小太郎!?」
小さな背中が、炎の迫る方向へ消えていく。
「小太郎、そっちは駄目だ!小太郎っ!!」
しかし、幼子にその声は届かなかった。
ぎりりと歯噛みして、真骨は敵を睨みすえる。
「てめぇら、さっさと死にな!!」
怒号した瞬間、矢が一斉に放たれた。自分の得物では、防ぎきるにも限界がある。
真骨は覚悟を決めた。

しかし、痛みは襲ってこない。
目を見開いた真骨の前には、広い背中があった。
「大兄貴…!」
蛮骨が、蛮竜で矢を防いでいる。
「なにやってんだ、お前」
「ご、ごめん…」
矢の攻撃がおさまったところで、蛮骨は蛮竜を一閃する。
辺りの兵は、その一撃で無残に散った。
「すげーなー、相変わらず」
「言ってる場合か。火が来る。逃げるぞ」
はぁと息をつく蛮骨の言葉に、真骨ははっとした。
「そうだ、小太郎…」
燃え盛る炎の方へ駆け出そうとする真骨の腕を、蛮骨が掴む。
「どこに行くんだ」
「子供がいたんだよ。でも、敵に驚いてあっちに逃げて行ったんだ。早く助けねぇと…」
蛮骨は炎に視線を投じると、首を振った。
「やめておけ。もう手遅れだ」
「そんなことない!俺一人でも探しに行く。手をはなしてくれ!!」
「真骨!」
掴まれた手を振り解こうとする真骨に、蛮骨が一喝する。
真骨は一瞬身をすくませたが、すぐに蛮骨を強い瞳で見上げた。
「子供に罪はないだろ!!こんなところで死なせるなんて…」
「それでも駄目だ!」
もがく真骨の腕を掴んだまま、蛮骨は無理やり引っ張った。
「お願いだ大兄貴!手をはなして…」
燃え盛る炎に混じって、乾いた音が響いた。
真骨は暴れるのをやめ、呆然と頬を押さえる。
「戦に私情を持ち込むヤツは、七人隊に必要ない」
炎に照らされながら、冷たく蛮骨が言い放つ。
言葉が、耳の奥に突き刺さった。
蛮骨の顔を見上げる真骨の目から、一つ、涙が落ちた。
「俺は、大兄貴にはついていけない…」
「だったら今すぐ七人隊から出て行け。お前の好きなように生きればいい」
蛮骨は踵を返して離れていった。
彼の行く先には、静かになりつつある戦場がある。
ぐっと息を詰め、真骨は蛮骨と反対の方向へ駆け出した。

走って走って、ようやく後ろを振り返ると、随分と戦場から離れていた。
黒い煙が行く筋も空へのびている。
真骨は立ち止まり、大きく息を吐き出した。
涙がどんどん溢れてくる。
こんなのは初めてで、どうしたらいいのかわからず、とにかくゴシゴシと拭った。
蛮骨の言葉が、胸の奥で何度も蘇る。
何が正しいのかわからなかった。
やっと見つけた居場所を、失ってしまった。
「俺、これからどうすれば……」
持ち物といえば、武器以外にない。
真骨は戦場を見つめたが、蛮骨の瞳を思い出すと、戻る気にはなれなかった。


真骨が出て行って、十日ほど経とうとしていた。
「大兄貴ー、なんで真骨を行かせちまったんだよ」
蛇骨が外を眺めながら、不満げな声をあげる。
「あいつが自分で選んだんだ。俺がどうこう言うことじゃねーだろ」
「あーあ、真骨、戻ってこねーのかなぁ…」
項垂れる蛇骨にため息をこぼして、蛮骨は家を出た。
真骨はまだちゃんとわかっていなかったのだ。
あんな気持ちのまま戦を進めていたら、かえって彼女のためにならない。
外の井戸で顔を洗っていると、背後に気配を感じた。
蛮骨は振り返らずに言う。
「やっと戻ってきたか」
返答がないので振り返ってみると、予想通り真骨がいた。
彼女に近寄り、蛮骨はポンと肩を叩く。
「今までどこに行ってた?」
「色んなとこ、転々と…」
「そっか…」
俯く真骨に、蛮骨は笑いかけた。真骨は蛮骨から視線をそらす。
「あの子供は、死んだかな……」
「ああ、多分な」
はっきりと、蛮骨は言った。
「きっと、怖かっただろうな…」
炎に襲われて、人に追われて。
「どうしてこんな思いをしなければならない?俺も、あの子も」
「お前の居場所がここだからだ」
真骨は目を見開いて、蛮骨を見た。
「お前が七人隊にいるかぎり、こんな思いは何度もする。もっと大事なヤツだって沢山死んでいく。
でもさ、それに慣れることなんてできねぇんだよな」
真骨は蛮骨の言葉を思い返した。

戦に私情を持ち込むヤツは…――

「慣れることはできねぇから、覚えておくだけでいい。お前もいつか、ちゃんとわかるようになる」
「俺は……俺の居場所は…ここしかないんだ。一人になってみて、それがよくわかった」
真骨は蛮骨に抱きついて、ぎゅっと力を込めた。
思いがけないことに、蛮骨は身を硬くする。
「俺、七人隊に戻っていい?皆のことが大好きだ。大兄貴のことも大好きなんだよ…」
言いながら、また涙が出てくる。
自分に苦笑しながら、それを見られないように蛮骨にしがみつく。
「だからさ、必要ないとか…言わないでくれ…」
蛮骨は小さく笑うと、真骨の頭をわしわしと撫でた。
「お前も、言わせるんじゃねーぞ」
蛮骨の腕の中で、真骨は大きく頷いた。

<終>

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後書き
あわわわ、なんちう話だ。
刹那さんとの相互記念に書かせていただきました。
刹那さんのサイトのオリキャラ・真骨ちゃんのお話です。
七人隊の誰か×真骨というリクで、蛮骨×真骨を目指していたのだがぁぁぁ
果たしてこの話に × を使ってよいのか!?
刹那さんスミマセンっ;こんなのでよければ貰ってくださいー!!

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