紅焔の蟒蛇うわばみ

かごめは一心不乱に駆けていた。
穏やかな木漏れ日が落ち、小鳥たちが暢気のんきさえずりを響かせる森の中、正午を少し過ぎた時分のことである。
(どうしてこんなところに……)
ばくばくと早鐘を打つ心臓を抱え、額に嫌な汗を滲ませながら、懸命に足を動かし続けた。

 

弥勒と珊瑚が敵の本拠たる白霊山に踏み入り、帰りの遅い彼らを案じて犬夜叉もまた後に続いた。
聖域の影響で体調を崩している七宝と雲母を託されたかごめは山のふもとで皆を待っていたのだが、ふと思い立ち、七宝たちを安全な場所で寝かしつけた上で近隣の森へとやってきたのである。
戦いが佳境となっている中、皆がまったくの無傷に終わるということはまず無いだろう。できればそうなって欲しくはないが、状況が状況なだけに大なり小なりの怪我は避けられないはずだ。
岩肌の多い白霊山に近づくほど草木がまばらになるので、今のうちに薬草の類を補充しておこうと――ついでに何か季節の果実でも手に入れば、七宝たちも少しは元気を取り戻すかもしれないと考えたのだ。
最初は、念のため鋼牙に同道してもらおうかと思っていた。しかし煉骨との戦闘で負った傷が癒え切っていないのに加え、妖怪である彼もまた聖域の影響で不調を少なからず抱えている様子で目を閉じているのを認めたので、気を遣わせないよう一人こっそりと出てきた。すぐに戻れば問題ないだろうと。
なのに。
肩越しに後ろを振り返り、すぐに視線を戻して走ることに集中する。左手に持った弓を間違っても取り落とさないよう、何度も握りなおす。
木々の根元に屈み込んで目的の薬草をみ集めていた折、ほんの微かな葉擦れの音が耳に届いた。何気なくその方向に目を向けた彼女は、木立の向こうに人影を見たのだ。
四魂の欠片の気配に気付いたのもそれと同時だった。
薄暗い森の中でも目を引く白い着物に、特徴的な模様が施された鎧。何よりも、あの身の丈を超える大鉾は他の誰とも見間違えようがなかった。
驚愕のあまりしばらく瞬きも忘れていたが、不幸中の幸いというべきか、その人物は背を向けていてこちらの存在に気付いている様子は無かった。
動揺を呑み込んだかごめは無意識に呼吸を止めたまま、わずかの足音も立てぬよう細心の注意を払ってその場を後退した。
一歩一歩慎重に距離を離し、相手の姿が幾重もの木々に遮られて目視できない位置まで来ると、身をひるがえして一目散に走り出した。
確かにここは白霊山から目と鼻の先で、彼の行動圏内であっても全く不思議はない。しかし山で犬夜叉たちの行く手を阻んでいるとばかり思っていた彼を、まさかこんなところで見かけることになるとは予想だにしていなかった。
なぜ、これほど近付くまで欠片の気配に気付けなかったのだろう。単独で行動していた事もあり、決して油断をしていたわけではなかったはずなのに。
白霊山の清浄な気が、欠片の気配を打ち消して探りにくくしているのだろうか。
かごめは思考を打ち消した。何にせよ考えるのは後だ。
脇目も振らず来た道を駆け戻る。
森の中と言ってもさほど奥深くまでは踏み入っていない。随所が開け陽光が適度に差し込んでいるので鬱蒼とした雰囲気でもなく、少し行けば小規模ながら人里もある。
前方に森の終点を認めたところで、かごめは静かに足を止めた。
かなりの距離を走ったようにも思うし、その実大した距離ではないような気もした。
慎重に振り返る。見える限りの視界には自分以外誰の姿もない。
いつでも放てる体勢で弓を構えしばらく森の奥を凝視していたが、どれほど注意を凝らしても他者の気配が感じられないのを確かめると、やがてほぅと肩の力を抜いた。
どうやらこちらの存在を悟られることなく済んだらしい。
あとは一刻も早く鋼牙たちのもとに戻り、七宝と雲母を連れて、ひとまずここを離れ――
「もう逃げるのは終いか?」
耳のすぐ後ろから掛けられた声に、かごめの心臓が跳ね上がった。

ぎし、ときしんだ音を聞き取り、かごめの意識はぼんやりと浮上した。
最初に認識したのは、草が隙間なく生い茂る地面だ。樹木が落とす濃い影と対を成すように、昼下がりの木漏れ日で描かれた白い斑がちらちらと揺れ動いている。
彼女ははそれを、どうにも奇妙な角度で眺めていた。地面に横たわっているわけではなく、かといってどこかに寄りかかっているのでもない。身体の均衡がとても不安定だ。
全身がぐらぐらと揺れている。船酔いに似た不快感を覚えて身動みじろごうとするも叶わず、代わりに何かが手足に食い込む感触が返ってきた。
「……?」
おかしい。
そう思った瞬間、かさりと落ち葉を踏む音が耳に滑り込み、紗がかかったようだった意識が一気に覚醒した。
「え…、え……?」
やはりおかしな体勢だった。
どうやら、両腕が背中で一括りにされている。
首を巡らせてみると、赤くて長い布のようなもので縛られ、余った部分が頭上の太い枝に渡されている。枝で折り返した布の反対側の末端は、折り曲げた状態の左膝に固く結ばれていた。
どういうわけかその左足は付け根から高く掲げている状態にあった。身体の部位で地面と接しているのは右足のみで、必然的に、水平方向に向けて足を大きく開いた格好をしていることになる。
腕を吊るされているだけの上半身は足を上げている体勢に逆らうことなく前傾し、腰とほぼ同じ高さに頭がきていた。
「な――何これっ……!?」
「ん? ああ、目が覚めたか」
間髪入れずに返された若い男の声に呼吸が止まる。今までずっと背後にいたらしい人物が、かごめを吊るした枝の強度を確かめ終えた様子で彼女の前に回ってきた。
「蛮、骨……」
かごめは顔を上げて間近に迫った男を見上げた。先の記憶は彼の声を聞いたのを最後に途切れている。あの直後何かをされ、今まで昏倒していたのだろう。
気配を完全に断って先回りしていたらしい彼は、先ほど目にした姿と違い鎧を身に付けていない。視界の端ぎりぎりの木の根元に、外された鎧と弦を切られた弓、そしてかごめが背負っていたリュックが見えた。
そこに至り、かごめは己の手足を戒めて枝と繋いでいるのが、常は蛮骨の鎧の腰元に結ばれているはずの赤い帯だと気付く。
「気ぃ抜くなら、せめて森を出てからにするべきだったな」
そう言うと、蛮骨は出来上がったかごめの吊姿を見直して納得したようにひとつうなずいた。
「っ……」
見られている自分の今の体勢を考え、かごめの頬に赤みが差す。
片足を高く上げているため、普段であれば決して見えないように気遣っている下半身の肌着が惜しげもなく異性の眼前にさらけ出されているのだ。
膝上丈のスカートはめくれ上が――
「!?」
かごめは目をいた。腰元を覆っているはずの緑色のスカートが身に付けられておらず、下着しか履いていない。
狼狽ろうばいして周囲を見回すと、少し離れた木の枝に、まさしくそのスカートがぶらさがって風に揺れていた。
「さ、最低…! こんな恰好させるなんて」
羞恥にまぶたを震わせ非難の言葉を向けるも、蛮骨に悪びれた様子はない。
生憎あいにくと、縛るもんが俺の帯しかなかったんでな。こいつの長さと使い勝手を考えればこれが一番簡単だった」
「使い…勝手……」
この状況とその言葉が意味するところを察し、かごめの表情に険がにじむ。
「冗談じゃない…! 今すぐ解いてっ!」
全力で身をよじり、勢いを込めて身体を揺らす。だが吊られた枝がわずかに撓って数枚の葉を散らし、帯の食い込みがますますきつくなるばかりだった。
むしろその滑稽な動きが蛮骨を楽しませる材料にしかならないと気付き、打ち震えながら唇を噛みしめる。
「やめて……お願いだから……」
徐々に血の気が引いていく顔をうつむける少女を眺めていた蛮骨は、しばし考えるそぶりを見せた後で口端を上げた。
「そうだなぁ…お前が気をやる前に俺から一発抜けたら、解放してやってもいいぞ」
かごめは戸惑った様子を見せた。
「気を……?」
言葉の意味がわかっていない様子の彼女を、蛮骨のいささか呆れ混じりの目が見下ろす。
「は? そんな恰好しといて未通女おぼこなのかよ。要するに、下に突っ込まれたくなけりゃ俺のここを死ぬ気でなぐさめろってことだ」
蛮骨はかごめの顔の横に立ち、前触れなく彼女の目線と同じ高さにある腰帯を緩め始めた。
「ちょっ…」
少しの躊躇ためらいも無く袴がくつろげられ、少女の眼前にまだ何の反応も示していない一物があらわにされる。
「っ……!?」
驚愕に一瞬だけ目を見開いたかごめは、慌てて視線を外した。男性器など弟のものしか目にした事がなく、それもかなり幼い頃の話である。凶悪とも思えるその容貌は、ほんの一瞬見ただけにも関わらずかごめの目の奥に強烈な残映を焼き付けた。
「なっ、何考えて…!」
「聖島で誰かさんが腕を射抜いてくれただろ? あれ以来、結界の外にいても、どうにも気分が悪くてな」
ただでさえ聖域に漂う清浄な気はこの身に不快なのだが、敵が白霊山に集結しつつある今、七人隊首領である自分が契約相手の奈落を放り出して遠くへ離れるわけにもいかない。かといってこのままでは、戦おうにも少しも本調子が出ない。
そこで、ここは一つ女でも抱けば少しはすっきりするのではと考えた。さらに人里近くをそぞろ歩いてみたところ、何とも都合の良いことに一人うろうろしている女を見つけてしまった。
それも体内にわだかまる倦怠感の元凶となった張本人を、である。これを手篭てごめにしてやればさぞや気分が晴れるはずだ。
訊かれてもいない動機を一方的に語るそばから、蛮骨は大きな手を白い上衣の中に滑り込ませ、脇腹を撫で始めた。
「ひっ」
ぞわ、とした感覚がそこから這い上り、かごめの身が竦む。
長い指は絹のような肌の適度な弾力を確かめるようになぞり上げ、身体の中心線に沿って次第に胸元へ迫る。胸を押さえる下着の上から輪郭を確かめるように包み込まれると、総身が粟立った。
「やっ、やだっ! 触らないでよ!」
悲鳴を上げるが、蛮骨の手は止まる気配を見せない。下着に寄せられてできた谷間へ指先を潜らせ、抵抗を楽しむように押し込まれる。
かごめは目の前にある蛮骨の陽物におずおずと視線を向けた。
蛮骨が羽織った小袖のはだけた前部から垣間見えるそれは、まだだらりと地面を向いている。
標準的なそこの大きさなど知る由もないが、かごめが何となく考えていたよりもずっと大きいことだけは確かだった。
慰めろ、と彼は言った。一発抜けたら解放してやる、と。
言葉の意味がかごめの認識通りで合っているのかはわからない。しかし男性のそこを刺激すればどうやら気持ちが良いらしく、その先で射精に至るのだということは、漠然とだが知っている。当然ながら実践した経験も、誰かと話題にする機会もこれまで皆無だったが。
この状況から脱する唯一の望みがそれしかないのなら、やらなければいけないのだろうか。
(どうやって……)
手足を縛られている状態で、自由に動かせる部位は頭くらいだ。そこに働きかける手段は自ずと限られる。
「う……」
唯一思い当たる方法は考えただけでも受け入れがたく、かごめの瞳が強い拒絶を宿した。だがその間にも下着の上から胸をまさぐる手の動きは大胆さを増していく。
小刻みに震える唇をぎゅっと引き結ぶ。
やめてくれといくら懇願したところで、聞き入れてはもらえない。言葉での拒絶は意味を持たない。
一度ごくりとつばを飲み込み、意を決してゆっくりと顔を近付ける。何度も躊躇いながら、ようやく竿の部分に唇をそっと当てた。
それはほんの瞬きの間のことで、耐え切れずすぐさま顔を離してしまう。たった一刹那の行動で多くのものを失ってしまったように思えて、双眸に涙の粒がせり上がってきた。
蛮骨の手が胸を守る下着の上を這いまわる。その手つきが何かを探しているようだと気付いた時には、すでに背部へ回り込まれていた。
「っ……」
縛られた両手よりやや上にある留め具は簡単に見つけられてしまった。金属が擦れるごく小さな音に次いで胸元の締め付けが緩み、外れた下着が制服を内側から押し上げる。
「やっ…!」
服の中で弾けるようにこぼれた乳房ちぶさが大きなてのひらに受け止められ、鷲掴みにされた。あどけなさが多く残る容貌と裏腹に十二分に女を感じさせる揉み応えに、蛮骨の口から感心したような声が出る。
「へえ、こりゃあなかなか」
左右の肩紐を引きちぎられ、留まるすべを失った淡い色の下着が制服の外へ滑り落ちていく。胸元の空間へひやりとした空気が流れ込み、次いで蛮骨の手が膨らみを下からすくい上げる。
「や、やだ……」
かごめは眉尻を下げてかぶりを振った。今にも泣きそうな顔で目の前の肉棒に顔を近付け、一度、二度とついばむように震える唇を押し付ける。
「んんっ」
触れるか否かの、接触と呼ぶのもおこがましい口付の最中、乳房の先端の果実が捉えられた。左右の突起をくりくりと摩擦されると、かごめの口から抑えきれない小さな悲鳴が漏れる。
「だめ…やめて……!」
こそばゆい刺激に身を竦め、肩を揺らして逃れようとするが、蛮骨の手と乳房は吸い付き合ったように離れない。ぎし、と帯の渡された枝が軋む。
かごめは蛮骨の股間に頭を寄せると、やっとの思いで口をわずかに開け、舌を覗かせた。ともすればすぐに引っ込めてしまいそうになるそれを努めて押し出し、下向いている肉棒をそっと舐める。
次の瞬間、嘔吐えずくような呻き声が細いのどから発せられた。しかし無駄にしている時間はない。一刻も早くこの男の射精を促さなければ、これ以上にひどい状況になる。
ぐっと眉を寄せて込み上げる吐き気をこらえ、根元から雁首の手前までぎこちなく頭を動かして舌を往復させる。どうすれば良いのか勝手がわからず、追い詰められるような心地ばかりが募って焦りを生む。
細かにいじくられる乳首は気持ちと裏腹に明らかな硬さを帯び、乳輪から先端にかけて扱くように愛撫する蛮骨の指の動きをより立体的にさせていく。
「やめて……」
無駄だとわかっていても、懇願が口をいて出た。
先ほどからぞわぞわとした感覚が止まないのは、肌寒い野外でこんな姿にさせられているせいばかりではない。身体の内側から、自分でもどうにもできない波が押し寄せてくるようだった。
かごめは最後の迷いを振り切るように強く目を閉じると、今まで決して触れずにいた陰茎の雁首より上部をぱくりと口に含んだ。
「うぐっ…」
反射的に胃から喉元へせり上がってきたものを無理やり飲み下し、亀頭が横たわる己の舌を恐る恐る動かす。肉棒を包み込んだ唾液が口の中へ広がっていき、舌先に雁首の凹凸おうとつや尿道口の窪みが触れた。
「ぉう…ぅ……っ」
できるだけ飲み込まないように、味や形を意識しないように堪える。
その時、蛮骨の手が動きを変えた。

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