蛮骨がようやく身を離したのは、西日が木々の狭間に半分ほど落ちかけた時分だった。
色濃い影が落ちる草木の中、情事のあとを無数に刻みつけ、赤帯をまといつかせた裸体が力なく横たわっている。胸を上下させて早い呼吸を繰り返す彼女の目からは光が消え失せ、ただ、涙の跡が乾き切らぬうちに新たな軌跡を描いていた。
蛮骨はかごめの背を抱えて上体を起こさせると、手近の木に寄り掛からせた。両膝に手をかけて大きく左右に開かせる。
「自分で広げて見せろ」
命じると、彼女は震えながらも言われるがままに柔らかな秘唇の左右に指をかけて広げた。敵方の男の前で自らこんな格好をしてみせることになるとは、少なくとも今朝までの彼女は想像もしていなかった。
広げられた孔からごぽりと大量の白濁が溢れ出して地面に溜まる。
仲間たちがそれぞれ命がけの戦いに臨んでいるというのに、自分は何をしているのだろう。
かごめが放心しているのをよそに、蛮骨はすっかり男の味を覚えたそこを覗き込む。
もはや生娘きむすめの片鱗は消え失せ、今し方まで咥え込んでいたものを取り上げられた不満を訴えるかのようにひくひくとしている。ほとんど下準備もないまま貫いてやった後孔は赤く腫れて出血し、蛮骨の視線を逃れようとするように奥で萎縮していた。
余すところなく蹂躙じゅうりんされ尽くした肢体をじっくりと目に焼き付けた後、蛮骨は先ほど蝋燭への点火に用いた胴火を取り上げた。筒の部分から燃え続けている火縄を抜き取る。じりじりと黒く焦げた先端からは微かな煙がのぼり、すぐに空気へとけていく。
かごめの目がわずかに揺れた。
「な…に……」
答えが返ることは無く、左手の指におびただしい白濁の中で溺れている肉芽を探し当てられ、その根元をぎゅっと押し込まれる。散々いたぶられて赤く肥大した剥き身の核が持ち上がって小刻みに震え、かごめは花弁を開いて見せたままの体勢でびくりと腰を跳ねさせた。
もう何度目になるかわからない絶頂に呑まれそうになりながらも蛮骨の手元を見下ろしたかごめは、彼が精液漬けにされた核に右手で持った火縄を近付けていくのを認めてはっと目を見開いた。
「やっ…!? なに、何して…!」
「他の男に見せられねぇようにしてやるんだよ。こんなとこ焼けちまってたら誰がどう見たって傷物きずものだろ」
訊かれたらどこの誰にどうして焼かれたかを懇切丁寧に説明してやれよ、とわらう蛮骨に、かごめの顔色は青を通り越して白くなる。
「ひ…ひっ……!」
反射的に両手でそこを覆おうとするも、火縄を持った蛮骨の手によって乱暴に退けられる。
じりじりと煙を立てる縄が近付いてくる。あからさまに燃え盛っているわけではないが、その先端は点火に十分な種火を宿しているのだ。
咄嗟になけなしの力で暴れようとしたかごめだが、目にも留まらぬ速さで口元を掴まれ、頭部を木の幹に押し付けられた。
恐怖で全身の力が抜けた。
「動くな。中まで焼かれてえのか」
こちらを見もせずに言う蛮骨の声音は低い。かごめは引き攣った呼吸をし、ぼろぼろと涙の粒を溢れさせた。
「やだ、やだやだ……許しっ……」
右手の火縄が、小指の先ほどの急所に狙いを定め迫り来る。
足を閉じなければと思うのに、身体は金縛りにあったように硬直して全く言う事をきかない。
「うっ…あぁっ……」
熱の気配と焦げるような臭いががじわじわと近付く。噛み合わない歯がかちかちと音を立て、双眼が絶望に染まる。
顔面を押さえつけた手の隙間から絶叫がほとばしった。
「やめ! やめでぇぇぇっ!」

火縄の先が肉芽に触れた。

と思った瞬間、かごめはびくびくっと白目を剥いて痙攣し、陰部から盛大に透明な体液を噴き出した。
ぶし、ぶしっ、と数回に分けての噴出が終わると、がくっと脱力し、股を開いたまま前のめりに昏倒して弛緩する。意識は無くなっていた。
対する蛮骨はいささか面食らった風情ふぜいで数度まばたく。
「おーい……冗談だっつーのに。ま、やりすぎたか」
大量の潮だか小水だかを浴びせられて火の気を失ってしまった火縄を放り捨て、蛮骨は嘆息混じりに肩をすくめた。
本気で焼く気は初めから無かったし、実際火縄はぎりぎりで陰核に触れていなかったのだが、思いがけずなかなか面白いものを見ることができた。
あの半妖がこの先彼女と肉体を繋げることがあったとしても、おそらくこんな痴態には一生お目にかかれないだろう。
わずかな優越感に浸っていた時、頭上から耳障りな羽音が降ってきた。
ちらと視線を向けると、一匹の巨大な雀蜂すずめばちの姿をした妖怪が近付いてくる。
「いい加減戻れってか。わかってるさ」
片手でうっとおしげに最猛勝さいみょうしょうを払いのけ、ほとんど腕から落ちていた衣を肩に掛けなおす。
かごめに巻き付いたままだった己の赤帯を解き、手早く身に付けた鎧の上から定位置に結んだ蛮骨は、気を失っているかごめの横に屈み込んだ。
膣内から溢れ出ている白濁をすくい取り、かき集めて再び中へ押し込む。そうしてから栓をするように、先ほど折った蝋燭の片割れを挿し込んでやった。さらにもう一本、余った隙間に捻じ込む。
「……あと一本入るな」
そう思うのだが、少女の荷袋には二本しか入っていなかったので仕方がない。
足で踏みつけるようにして奥まで押し込み、勝手に抜けてこないことを確認する。蝋燭の隙間からき止めきれない精が溢れ出、再び尻の方へ伝い始めるのにそう時間はかからなかった。
最猛勝がせかすように羽音を立てる。蛮骨はじとりとそちらを睨んだ。
目覚めた後どんな顔をしてこれを抜き出すものかぜひ拝みたいところだが、これ以上油を売ってもいられない。
少なくとも今後、蝋燭を見る度に今日の行為を思い出さずにはおれないだろう。それでよしとするか。
胴火は少女の顔の横に置いておく。元々、ここへ来る途中に襲い掛かってきた足軽くずれの野盗が持っていたのを失敬しただけだ。失ったところで不便はない。
「誰かに見つかる前に起きねえと、また好きに使われちまうぞ」
最後にそれだけ告げると、汚れきった姿で横たわるかごめを打ち捨てたまま歩き出す。
大鉾を担いだ男の姿は陰を深める森の奥へと消え、周囲には何事も無かったかのように、息を潜めていた小鳥や虫の音が一つまた一つと戻り始めた。

<終>

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