熱気と独特の臭気が立ち込める塚の底で、奈落は静かに立ち上がった。
足元には、全身を痙攣させた七人隊首領がうつぶせの状態で横たわっている。
身体の下に広がる白濁と粘液の海の中、いまだに一本の触手が肉棒を弄りまわし、もはや押し留められることもなくなった薄い精液が、作り出されたそばから垂れ流れていた。
海の中には大小六つのされこうべが浸かり、その全てが一対の洞で、時折びくりと大きく震える己たちの首領を言葉無く見つめている。
蛮骨に絡みついていた最後の触手を、奈落は静かに体内へ戻した。
このまま触手だけを残していつまでも責め立てることは可能だが、ひとまず死人の耐久力については概ね把握できた。
これ以上は時間の無駄なので、さっさと当初の目的に取り掛からせるべきだろう。
倒れ伏した蛮骨の腹下に爪先をかけて仰向けると、わずかに開いた双眸が奈落を捉えた。
「ほう、かろうじて意識を繋いでいたか」
蛮骨の口が小さく開閉し、「欠片をよこせ」と、ようやく聞き取れる声で切れ切れに紡いだ。
「しぶとい男だ」
手始めに、逆らう気も失せるほど矜持を叩き折ってやるつもりだったが、どうやらまだ完全には砕けていないらしい。
こちらの命令に従いはするだろうが、琥珀のように従順な犬とはならないだろう。
くく、と低い笑みが漏れる。
この分ならば欠片の力で強化された肉体は無論のこと、精神もそう易々と折れはするまい。
犬夜叉たちの足止めに少しは役立つだろうと、奈落の唇が薄い弧を描く。
懐から欠片を取り出すと、蛮骨の右手の上に放った。
数は六つ。
それを見届けると、糸が切れたように蛮骨の瞼が落ちる。今度こそ完全に意識を失っていた。
しばらく放っておけば欠片の力で回復し、動けるようになるだろう。
「短い命、せいぜい足掻いてみせるがいい」
聞く者のない言葉の反響が止んだ時には、七人塚の底の闇からひとつの気配がかき消えていた。
<終>