地面から突き出た触手は瞬く間に蛮骨の四肢を絡め取り、強制的に立たせて大の字の姿勢に拘束した。
立つという動作自体が十数年振りのことで、関節がみしりと軋んだ音を立てると共に、鈍い痛みが生じる。
顔をしかめる蛮骨の裸体が、一分も隠されることなく漂う仄明かりの中で露わになった。
「仲間全員分の欠片を望むのならば、これより与える苦痛の中、意識を保ってみせよ」
人の姿をした妖怪が提示してきた条件は、言葉で聞く分にはごく平明なものだった。
知らぬ間に、塚の底は地面や土壁のほとんどを触手に覆われている。大小様々な形態の触手が、それぞれ意思を持ったようにひしめいて耳障りな音を立てた。
「化け物が」
視界を埋め尽くす触手を見渡して吐き捨てるように言うと、奈落はゆるりと口角を上げた。
その瞳に好色的な気配は窺えない。言葉通り、骨と墓土のみで作り出されたというこの身がどこまで耐えられるものか、その点にいささかの興味があるだけという風情だった。
触手が四方から這い寄り、鍛えられた肢体の至る箇所に巻き付いてきた。背や腰の曲線にぴたりと吸い付き、肌を滑りながら締め付けたり緩めたりを繰り返す。
尖った先端部は鎖骨や胸元に伸び、肌の隆起を触れるか否かの間際で繊細になぞった。
触手たちは時を待たずして下肢のあらぬ部位にも手を伸ばす。根本から先端にかけて緩やかに巻き付くと、芋虫が這うような動きで前後に往復を始めた。
「……」
嫌悪感を隠そうともしない眼差しで、蛮骨はその様子を見下ろす。
奈落の視線を受けた時から、何をされるかの予想は大方付いていた。
だが実際その段になると、蘇えって最初にすることがこれか、という虚しい気持ちが湧いてくる。
それでも、まだ余裕はあった。
起き抜けにされるにはかなり胸糞の悪い行為ではあるが、人外のものから受ける責め苦と考えれば、覚悟していたよりも生ぬるい。
岩に腰掛け、声ひとつ上げずに触手のなすがままにされている蛮骨を眺めていた奈落が、気のない声を発した。
「流石に、まだ平気そうだな」
「……さっさと済ませろ」
「まだ小手調べだ。人の手では到底辿り着けぬ境地へ連れて行ってやる」
奈落の言に呼ばれたかのように、天井の方からずず…と新たな触手が降りてくる。
他とは形状が異なっており、すい状に湾曲した先の方には深く十字の亀裂が走っていた。
蛮骨の目前まで降りてきた触手が、にちゃ、と粘ついた音を立てて小刻みに左右に振れる。と、先端の亀裂から四つに裂けて花のように大きく開き、肉色の内側が露出した。
「っ……」
気色の悪いその様相に、蛮骨は目元に険をにじませる。
ぐぱりと開いた内部にはびっしりと小さな突起がうごめき、透明な粘液が糸を引いていた。
突起の表面にはようやく目視できるほどの繊毛が生え、他の突起と擦れ合うたびにさわさわと音を立てる。
さらに、その奥まった中心部には、柔らかく先細りした小型の触手が菊花のごとく密集し、獲物を待ち構える菟葵いそぎんちゃくのような動きで伸び縮みしていた。
蛮骨に奥の構造まで十分見せつけた後で、触手は裂け目を繋げて再び筒状の形態に戻り、さらなる下降を始めた。
次に目指すものが容易に察せられ、蛮骨はわずかに身を硬くする。
筒型触手は蛮骨自身のもとへ辿りつくと、ほんのわずか芯を持ち始めた一物へ向けて大きく口を開いた。
蛮骨の目の前で、肉棒がゆっくりと包み込まれていく。
「……っ」
先端から徐々に侵食していく、肌が粟立つような感触に眉根を寄せる。
内部の粒が微細に振動し、全体を蠕動ぜんどうさせながら、触手はより深く咥え込もうと根元まで覆い被さる。
内側を埋め尽くす突起に表面をぞりぞりと擦りあげられつつ、やがて肉棒は完全に触手の中へ呑まれてしまった。
奥まで到達した瞬間、蛮骨の腰部がびくりと揺れた。
「うっ…」
獲物を待ち構えていた柔花が、亀頭に触れるや一斉に絡みついてきたのだ。
四方八方から、無数の尖った舌に舐められているかのような感覚が襲う。えらの張った雁首の溝にも余すところなく這いずり、ねぶりまわされる。
複雑な内部構造を備えた触手は蛮骨の男根を咥え込んだまま、びちびちと身をくねらせ始めた。
「うっ…あ……」
じゅぽ、じゅぽ、と大きな水音を立てて、触手から肉棒が抜き差しされる。
肉茎の形に沿って三箇所にくびれができ、前後する度に搾り出すような締め付けをもたらした。
亀頭は奥に当たるたび、菊花の餌食になる。突き入れられると舌の寝床に引きずり込まれ、抜かれる際には逃すものかと追いすがってくるのだった。
かつて味わった試しのない感覚に下肢が震える。
思わず腰を引きそうになるが、がっちりと拘束された四肢はわずかも動かすことができない。
「くく、まがい物の肉体でも感覚は変わらぬと見える。果てそうになっているな」
「誰が、こんなもんで…」
蛮骨は虚勢を張ったが、奈落は嘲笑を浮かべると蛮骨の中心に喰いついて左右に暴れる触手に触れた。
「これらはわしの一部。いくら平静を装おうとも、お前が中でどんな反応を示しているか手に取るようにわかるぞ」
蛮骨の目元にさっと朱が差した。
奈落の言う通り、己の一物はすでに触手の中で大きく勃ち上がり、熱を帯びている。
触手内に満ちた粘液に何らかの成分が含まれているのか、それともこれが十数年振りに味わう性触のためかは分からないが、自分でも戸惑うほどの反応を示してしまっていた。
「んっ……く……」
筒型触手が幹を突起で擦り上げながら右へ左へと捻るように回転し、全体をきつく吸い上げ収縮を繰り返す。
菊花は亀頭を抱きすくめ、貪るように舐めまわしながら中心の小さな穴をつつき回した。
その間も絶えず胸元や腰周りを別の触手が這いまわり、繊細な箇所に触れては痺れるようなうずきを身体に駆け巡らせる。
「う…うっ……」
全身が打ち震え、中心に熱が溜まっていく。解放を望む怒張が、しゃぶりつく触手の中で限界まで張り詰めた。
「もっ……い――」
柔花に裏筋と亀頭を一度に責められた瞬間、頂点を越えた蛮骨は腰を突き上げて精を解き放った。
――だが。
「っ!? …っ!!」
意に反して、吐精は叶わなかった。
腰がかくかくと前後するばかりで、一滴も出てこない。
想定外の事態に、蛮骨は渦巻く熱の中で愕然とする。
「なん……」
「急所の根元を締められていることにも気付かんほど夢中だったか」
奈落の抑揚に欠ける声が響いて、目を瞠る。
目視することはできないが、意識してみると確かに、触手の一本が肉棒の根元とその下のふくろに絡みついてきつく締め上げ、射精に至る道筋を堰き止めていた。
言われて初めて気が付いた蛮骨の頬に、かっと血が昇った。
だが、すぐに次なる波に襲われる。
「いっ…」
感覚的には果てに達したものの、吐き出されなかった熱は体内で逆巻き、より大きなうねりをもたらす。
そんなことはお構いなしに竿を呑み込んだ触手による咀嚼は動きを増すばかりで、内部で揉みくちゃにされる蛮骨自身は、なぶられるままひたすらにもてあそばれ続けた。
「――っ!!」
再び蛮骨の全身がしなった。
陰嚢がぐっと収縮するが、やはり切望する解放は得られない。
させてくれと請え」
唐突に突き付けられた奈落の命令に、浮かされかけた意識の中で視線だけを向けた。
「だ…れが……」
「ふ、まだ足りぬと見える」
蛮骨の背後に新たな触手が伸び上がった。
固く閉ざされた後孔の入り口にぴたりと何かを当てがわれたのを感じて、息を詰める。
そちらに視線を向ける間も無く、男性器ほどの太さがある触手が、狭い穴を無理やり割り開いて侵入してきた。
「う……」
初めてそこに踏み入られる痛みと不快感に眉がきつく寄り、こめかみに脂汗が浮き出した。悲鳴を上げるまいと食いしばった歯間から呻きが漏れる。
窮屈な体内はあっという間に触手で満たされ、わずかな動きも漏れなく内腑を震撼させた。
「うっ…うぁっ…」
侵攻する触手がぐりぐりと前立腺を擦り、すでにはち切れそうになっている精巣がぎゅっと持ち上がる。
蓄積されるばかりの絶頂感に快楽よりも苦しみの方が勝り、蛮骨は酸素を求めて大きく口を開いた。
「――まだ正気は保っているな」
さらに幾度かの射精を伴わない越頂を経た後、後孔を犯していた触手がにわかに静止し、喰いついて離れなかった触手はずるりと怒張を吐き出した。
暴力的な嵐の中で翻弄され続けた陰茎は、呑まれる前と同じ器官とは思えないほどに質量を増して赤く腫れ上がり、小刻みに揺らぎながら天井を見上げていた。
透明だった粘液は触手内でかき混ぜられたことで白く濁り、幹をねっとりと覆いながら、仄明かりの中で艶めかしく光る。
「は……」
じんじんと脈打つ熱を持ってこれ見よがしに上向いてしまっている自身を直視していられず、蛮骨はそこから顔を背けた。
「辛そうに震えておる。欲を吐き出したいだろう」
奈落の白い指が、軽く爪を立てて幹の裏筋を下から上へなぞり上げた。その軽微な摩擦すらも波のように背筋を駆け上るのを、眉間に皺を刻んで懸命にやり過ごす。
「さわる…な……」
やっとそれだけ口にすると、奈落は笑みを浮かべ、ついと片手を振った。招かれたように一本の触手が近づいてくる。
その先端にあるものに、蛮骨は目を見開いた。
白いされこうべ。塚の底に落ちていた――仲間の誰かの、髑髏だった。
定かではないが、大きさや特徴から見ておそらく彼のものではないかと察せられる。
その頭蓋が、今にも弾けんばかりの肉砲の目と鼻の先に据えられたのを認め、蛮骨の瞼がわずかに震えた。
「ここまで意識を保った褒美だ。放出させてやる」
蛮骨の顔から血の気が引く。
「やめ……」
今、根元を戒める触手を外されたら、否応なく射精してしまう。この距離では間違いなく、そのほとんどが髑髏に浴びせられる。
うまく回らない頭の中でも、それだけは嫌だという思いがはっきりと鳴り響いて、蛮骨はゆっくりと首を振った。
「射したく…な……」
「何を言う。ここは、これほど辛そうにしているではないか」
根元に食い込んだ触手が緩まり、するすると離れていった。浮き出た血管を脈動させる肉棒に注ぐ血流がどっと増え、より大きく成長させる。
髑髏を前にぎりぎりのところで耐えているが、少しでも呼び水があれば即座に決壊するであろうことは明白だ。
我慢を強いられた汁がぽたりぽたりと落ちていく中、懸命に最後の一線で踏み止まろうとする蛮骨に、奈落は愚かしい者へ向けるような冷笑を刻んだ。
「外道と呼ばれた七人隊首領も存外、人間臭い情に篤いようだ。死すれば骨など物同然だというのに、己の欲で汚すのを躊躇ためらうか」
煽るような言葉を紡いでくる奈落に、蛮骨はかたくなに頭を振り続けた。
煤けて、ひび割れて、ひどく無機質な、物言わぬされこうべ。
それでも――これは七人隊の仲間だ。
あの日、自分より先に死なせてしまった、弟分だ。
骨と化してなお、このような辱めを受けさせるわけにはいかない。
荒い呼吸の中、蛮骨は声を掠れさせながら呟いた。
「頼む、やめてくれ……」
次の瞬間、前髪を無造作に掴まれ、顔を持ち上げられる。奈落が底の見えない瞳で覗き込んできた。
「人間の分際で、わしと対等のつもりか? こういう場合の頼み方は心得ているだろう」
蛮骨は恨めしげにぐっと奥歯を噛み締めたが、やがて力なく頭を垂れる。
「やめ…て、ください」
奈落はしばらく無言で蛮骨を見下ろしていたが、やがて髑髏を掲げた触手を後退させた。
されこうべが退けられたことに安堵した蛮骨が僅かに息をついた瞬間、後孔に入っていた触手が勢いよくせり上がった。
「――っ!!」
深々と突き上げる力のみで地面から足が浮くほど持ち上げられ、内腑を貫かんばかりの衝撃が体内を襲う。
上へ上へと伸びる触手に対し、自重と、四肢を元の位置へ止めようと引き戻す触手の力とが拮抗して、体内の異物をこれ以上ないほど深くへめり込ませた。
両目が見開かれ、かは、と喉が鳴った。
侵入物は肉壁越しに腹側の弱点を叩き潰し、ごりごりと抉る。
がくんと仰け反った直後、溜めに溜められた熱が一気に出口へ殺到して凄まじい勢いで噴き上がった。
「あっ――あぁ――!!」
秘孔の触手が無遠慮に突き進む感覚と、熱液が竿の中をこじ開けながら駆け上がる刺激に全身が引き攣れ、目の奥で火花が爆ぜる。
「うぅっ、あっ…ああぁっ!!」
堰を切った射精は容易に収まらず、暗闇の虚空へびゅるびゅると白い軌跡を描き続けた。
前の屹立が時間をかけて熱を吐き出し終わっても、後孔の触手は進行の足を止めなかった。一本だった触手が内部で分裂し、さらに奥を目指して開いたり閉じたりを繰り返す。
激しい嘔吐感がせり上がる。しかし吐き出せるものもなく、食いしばった歯の隙間から唾液が流れ落ちた。
触手の侵入が限界まで達してもしばらくそのまま持ち上げられ、重力のままに深々と貫かれる。
ひゅうひゅうと鳴る口から出るものに泡が混ざり、突っ張った手足の先が小刻みに痙攣し始めたところで、触手が両ももを持ち上げ、膝を左右に開いて腰の高さと水平の位置で折り曲げる格好で上から吊り下げられた。
「うっ……」
ずぼ、と音を立てて後孔の触手が一気に引き抜かれる。強制的に押し上げられた内腑が元の位置に戻る感覚に、再び吐き気が込み上げた。
「生身であれば無事では済まぬところだが、この程度で壊れるようなら用は無いぞ」
激しく咳き込む蛮骨に、奈落が足音もなく歩み寄る。
「ふふ、十数年振りに精を放った気分はどうだ?」
そう言いながら彼が持ち上げて見せたものに、蛮骨の瞳が凍り付いた。
先ほど退けられたはずのされこうべ。何とか懇願を聞き入れられたものと思っていたそれが、大量の白濁液にまみれて彼の手中にあった。
「あ……」
髑髏の表面をどろりと伝う精液が、こちらを向いた両の眼窩へ滑り落ちていくのを、茫然と見つめる。
「っ……、…骨――」
頭部の持ち主の名を呼ぶとともに、唇が力なく戦慄いた。
肩を上下させながらも双眸は奈落を睨み据え、激しい怒りを宿す。
「絶対…に、許さ……」
「結構。せいぜい正気を保って耐え抜く事だ」
奈落の口調から、責めがまだ終わりではないのだと――むしろこれからなのだと気付かされた蛮骨は慄然とする。
休む間もなく、奈落の目線と同じ高さでまで持ち上げられた股間に再び触手が潜り込み、左右に広げられた双丘へ小刻みな抽挿を開始した。
「うっ……、んっ……」
空気の澱んだ塚の底に、濡れた音とくぐもった声が重なり合って反響する。
しばらく入口付近を舐めるようにいじりまわしていた触手は、徐々に奥を目指して前後する距離を深めていく。
やがて突き当たりまで入り込んだ触手が力むようにぐっと膨れ上がった次の瞬間、表面にこぶのような隆起がぼこぼこと生じた。
「うあぁ!」
体内が無理やり拓かれる衝撃に喉から引き攣れた叫びが漏れる。
一気に倍ほどまで質量を増した触手の瘤が、出し入れのたびに閊えのようになって入口に引っかかった。
常に窄まろうとする秘孔は瘤の横暴な行き来で裂けそうなほどにこじ開けられ、耳を塞ぎたくなる音を立てながら、触手が分泌する粘液を飛び散らせている。
「ひっ…いっ……」
緩急をつけて突き上げ、時折身体が持ち上がるほど深く捻じ込まれると、蛮骨の苦鳴がさらに大きく響いた。
先ほどようやく解放を迎えたばかりだというのに、触手の抜き挿しに合わせて上下に振れる一物は再び大きさと硬度を増し始め、滲み出る透明な滴が腹の上を濡らした。
その下の双玉も満たされつつある子種によって重みを取り戻し、次なる発射を今か今かと待ちわびるように張り詰めていく。
そこをね潰すように、幾本もの触手がぞりぞりとなぞり掠めるのだった。
あっという間に芯を取り戻してしまった自身は、存在を誇示するように奈落の鼻先でそそり立った。
「存外に正直な身体だ」
「うっ……」
先端から先走りの汁がとろとろと溢れ出すのを止められず、途轍とてつもない羞恥に顔を歪めて奥歯を噛み締める。
後孔を掘り抉る触手は次第に速度を増し、それに呼応するように、肉棒を扱く触手も、嚢を弄ぶ触手も動きを強めた。
「うぅっ、あっ……」
強制的に大きく開かされた足の爪先がぐっと握り込まれた。
「ぁ──!!」
腰から背にかけてが弓なりにしなり、勢いよく熱が射出される。その直前、先とは違う髑髏が据えられたことに気付いたが、とても止められるものではなかった。
二つ目のされこうべが真正面から白濁を浴び、渇いた表面をねっとりと濡らした。
荒い呼吸の中、いたたまれない思いで汚してしまった弟分を見せつけられる。
「…骨……」
二射目を受けた髑髏は、一射目の髑髏の横に並べられた。
後孔から触手が湿った音を伴って抜き去られ、ぼたぼたと滴る粘液が地表に溜まりを作る。
奈落は激しく息をする蛮骨の顎を掴むと、薄く涙が滲んでいる顔を覗き込んで不敵に嗤った。
「蘇えったばかりの身には堪えるであろうな。今からでも泣いて謝れば止めてやろうか」
蛮骨はぐっと息を詰める。
六つの欠片を諦め、三つで妥協する。そうすればこの責め苦は終わり、これ以上の恥を晒さずに済む。
奈落の言う通り、もはや腰が砕けて膝が笑い、触手に吊られていなければ身体を支えることもままならない状態なのは、蛮骨自身が一番わかっていた。
「……」
だが、欠片の不足を呑むということは、選ぶということだ。弟分たちの中で誰を生かし、誰を切り捨てるか。
自分がここで音を上げなければ――全員を蘇えらせる道は、まだ潰えない。
蛮骨が口を開きかけた刹那、奈落が見下すように言い放った。
「欠片の力を得たとて、所詮は脆弱な人間よ。このままでは手が滑って殺してしまうやもしれん。二度目の生も無為に終わらせたくはなかろう」
蛮骨の双眼が見開かれた。顎を掴む手を払うように顔を振り、まなじりを決する。
「俺たちの命が無駄だったかどうか……てめえに決められる筋合いはねえ!」
そうだ。首を討たれる時でさえ、一度たりとも命乞いはしなかった。いかなる苦痛を与えられても、自分から膝を屈する選択肢など端からありはしない。
噛み付くような言葉とともに鋭い光を取り戻した瞳を見て、奈落はほくそ笑む。
「それだけ元気があれば、まだいけそうだな」
大人しくしていた触手が再び活性化したように蠢き始め、蛮骨の萎えた肉茎に取りついた。触れられただけで痛いほどの刺激を覚え、身が竦みそうになるのを必死に堪える。
「終わる頃にはここが使い物にならなくなるやもしれんが、どの道死人の身では用途も無かろう。こうして相手をしてやるだけ有難く思え」
「だ…れが! くそっ……や、め…!」
意思とは裏腹に、肉竿は絡まれるまま、扱かれるまま、浅ましくも新たな熱を帯び始める。
細い触手に鎖骨や胸元の突起をしつこくなぞられると、上体にも緊張の根が隅々まで伸びていく。
蛮骨は噴き出す汗の中で眩暈を感じながら、おかしい、と思った。
身体は疲れ切り、覚えるのは痛みと苦しみばかり。勃たせる気力などとうに無いはずなのに、これほど幾度も反応を示すわけがない。
常であればとうに出し尽くされているはずの精も、どれほど放出しようと後から後から生成され、いつまでも下腹を疼かせる。
これも、四魂の欠片の治癒力とやらが作用しているのか。
――ろくなものではない。
自分の身体が別の何かになってしまったような、戸惑いや焦燥に似たものが込み上げそうになり、しかし際限なく与えられる強烈な苦痛の中に引きずり込まれ思考がかき乱される。
「うっ、あっ……」
触手の中で苦しげに身悶える蛮骨を静かに眺めていた奈落の目が、七人隊の遺骨の狭間に光るものを認めてわずかに細められた。

 

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