Because of You
「んじゃ、蛮骨。かごめを頼むな。」
そう言って犬夜叉は、桔梗と行っちまった。
隣のかごめを横目で見ると、うつむいたまま、二人を見ないようにしている。
あのバカ・・・なんで、桔梗なんだよ?かごめを置いてきやがって。
ほんの少し前――おれと犬夜叉とかごめは、とある村に到着した。
おれたちが村に到着した時にはすでに、妖怪は倒された後だった。
妖怪を倒したのは、桔梗。桔梗もかなり弱っていた。
闘いの最中に死魂をほとんど失ったようで、妖怪の残骸の中に倒れていた。
この辺りには死人の魂がないらしく、死魂虫はただ空中を揺ら揺らと漂っているだけだった。
死人の魂があるところまで、桔梗を運ばなくてはならない。
おれが桔梗を連れて行くと言ったけど、犬夜叉が桔梗を送り届けると言った。
桔梗もそれを望んでいるようにも見える。
犬夜叉に身体をあずけて、目を瞑ってぐったりとしている。
かごめは一瞬眉をひそめたが、すぐに笑顔で犬夜叉に言った。
「犬夜叉、早く桔梗を安全な場所に届けてあげて。私なら大丈夫!蛮骨がるから、ちゃんと村まで帰れるわ。」
「桔梗を送り届けたら、すぐに戻る。」
かごめは笑って見せていたけれど、本当は・・・笑える心境じゃねえってことくらい、察しろよ、犬夜叉!
おまえはまた、かごめを悲しませた。
気づけよ・・・かごめの涙に。
おれだったら、かごめを独りになんてしねえ。
「帰ろ、蛮骨。」
「え?あ、あぁ。そーだな。」
蛮竜を担いで、かごめと村へと引き返すことにした。
楓の村からここまでは、一晩野宿をするくらいの距離があった。
一昨日、ばあさん(楓)を頼って、旅の僧侶がやって来た。
旅の途中に立ち寄った村人から、妖怪を倒して欲しいと頼まれたのだという。
けれど僧侶には大して力もなくて、妖怪を倒すこともできず。かといって、この危機を見過ごすわけにも行かず。
小屋には、ちょうどおれたちしかいなくて、ばあさんは老体で遠出ができねえ。
なので、ばあさんの代わりにおれたちが村へ行くことになった。
一晩かけてやって来たはいいが・・・結局おれたちは何もできず。
なんだか、妙な展開となってしまった。
おれとかごめはずっと、黙ったまま歩き続けた。
こういう時って、どーして気の利いた言葉が見つからねーんだ。
「少し休むか?疲れてねえか?」
「平気。」
「けど、おまえ、あんまり昨日寝てねえみてえだったし。急ぐこともねーし、のんびり行こうぜ。」
「・・・ありがとう。じゃ、少し休んじゃおっかな。」
適当な場所を見つけて腰を下ろした。
ああ、今が春だったらな。寝転んで、うたた寝なんかして、気持ちいいだろうな。
けど、今は寒い時期だ。すぐそこまで、冬の気配がしている。
おれは四魂のカケラがあるから、寒さ暑さも平気だけど、かごめはそうはいかないようだ。
手袋っていうのか?そういうのを手にはめている。まふらってやつも首に巻きつけている。
かごめが国から持ってきたやつ。それを身に着けていると、温かいようだ。
「お茶、飲む?」
温かいお茶を差し出された。かごめの持っている水筒は実に不思議だ。
熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま出てくる。
「ありがとよ〜。」
二人並んで、まったりと茶をすすった。
「なんだか、ピクニックに来たみたいよね。こーしてると。」
「ぴくにっく?」
「えーっと、遠足よ。」
「ああ、遠足な〜。握飯でもありゃ、もっと雰囲気でるぜ。」
「お菓子とかお弁当とか、持って来ればよかったわね。」
「あのさ、目的忘れてね?おれたち、妖怪退治に来たはずなんだけどな〜。」
「そーだったわね〜エヘヘ。」
予定変更となってしまったが、こんな感じも悪くねえ。
おれは立ち上がって蛮竜を担いだ。
「ちょっと待ってろ。」
「え?」
「なんか食い物探してくる。今日はここで野宿しねーか?」
「そうね!じゃ、私は薪を集めて、火を起こしておくわね!!美味しいもの、期待してるから。」
「おう!」
こりゃ〜絶対に手ぶらじゃ戻れねえな。
かごめの期待を背に、おれはさっそく森へと入って行った。
・・・失敗した。
この時期、冬の森に、獲物なんていなかった。キノコもたいして生えてねえ。
毒キノコばっかりじゃねえか!!
小動物はみな、早々に冬支度をして冬眠とかしてるんだろうか?
更に森の中を行くと、山小屋が現れた。
近づいて、明り取りの窓から中を覗いた。囲炉裏があって、小屋の壁には獣の毛皮が掛けてあった。
けれど、あまり生活感が感じられない。
ここはなんの小屋だろうか?人が暮らすにしちゃ、随分と不便な場所にある。
もしかすると、もうここには住んでいないのかもしれない。
野宿をするよりも、この小屋で一晩明かした方が良さそうだな。
おれはかごめを呼びに行った。
「いいの?ここに泊っちゃっても。」
「大丈夫だと思うぜ。まあ、ここのヤツが戻ってきたら、事情を話して一晩止めてもらおうぜ。」
おれたちは小屋には行ってみた。
案の定、ここで暮らしているという感じがしなかった。
囲炉裏を見ると、少なくとも最後に火をつけてから大分経っているようだし、食料らきものも見当たらない。
やっぱり、ここを出て行ったに違いない。
幸いなことに、小屋の裏手に小さな小川が流れていた。水は確保できる。
「食い物見つけてくるから待ってろ。」
蛮竜を手に、小屋を出た。
さてと、なんかマジで探さねえと。
おれが森には行ってしばらくしてから、その小屋に男がやって来た。
「誰だ?人の小屋に勝手に入ってるヤツは?」
かごめはドキリとして後ろを振り返った。
「あ、えっと・・・ごめんなさい。勝手に入って。」
慌ててかごめは事情を説明すると、男は快く一夜の宿を許してくれた。
「そういうことなら構わねえよ。おれはこの近くの村に住んでる太郎冠者ってもんだ。時々この小屋にやって来て、仕事している。」
「どういうお仕事をしてるんですか?」
「森に罠を仕掛けて、鹿やらうさぎやら、熊やらを捕まえるんだ。その毛皮を剥いで、街へ売ったりするんだ。
冬支度のために、少々金が必要になってな。新しく罠を仕掛ける準備のためにここに来たら、お嬢さんが居たということだな。」
男は、できれば熊をしとめたいと思っている。
熊は毛皮も売れるし、肉も売れる。爪は妖怪退治屋に持ってゆけば、高値で買ってもらえる。
でも熊は滅多に罠には掛からないらしい。
日が傾いてもおれがなかなか戻って来ないのを心配して、男が森へ探しに行くと小屋を出てった。
その頃おれは、必死で獲物を探していた。けど、僅かにキノコを手にしているだけ。
これじゃ、かごめの腹を満足させることができねえ。
小屋からは大分離れてしまったこともあって、やっぱり戻ることにした。これで我慢してもらおう。
と、突然。右足に激痛が走って、思わずその場に倒れこんだ。
いっっってぇぇぇぇっ!!!痛ぇーぞっ!!
足を見ると、罠にガッチリ挟まれていた。その罠には鋭い角のようなもんがある。
まるで、鋭い牙を持った獣に、噛み付かれているようだ。牙が足に突き刺さっている。
しかも悲しいことに・・・足首の骨が砕かれてる。
小さな動物なら、こいつに挟まれりゃ、即死だなと思った。そのくらい、威力のある罠だった。
急いで、罠を地面に繋ぎとめている鎖を蛮竜で一突きして切り離し、罠から足を外そうと試みた。
食い込んだ罠に、力を込めて広げると、傷口からどっと血が流れ始めた。
一瞬、めまいを覚えた。
まさか・・・罠に毒が塗ってあるのか!?
次第に身体の力が抜けて行く。罠を外そうとする指に、力が入らねえ。
せっかく広げた罠から手を放してしまって、またバチンッと罠に挟まってしまった。
また更に骨が砕かれてしまった。
ヤバイ・・・骨を再生するには、ちょっと時間がかかるかもしれない。
そうこうしているうちに、とうとう視界がぼやけてきて――そのまま意識を失ってしまった。
ついてねえ・・・かごめが待ってるっていうのに・・・かごめ・・・・・・きっと心配してるだろーなぁ・・・・・・・・・
目覚めた時、心配そうに覗き込むかごめの顔がすぐ近くにあった。
「かごめ・・・・・・」
「蛮骨!」
かごめはおれの手を握って心底ホッとした表情を浮かべた。
すると、かごめの肩越しに、知らねえ男の顔がヌゥッと現れた。
「罠に塗っていたのは眠り薬だ。けど、随分前に仕掛けた罠だったんだがなぁ〜まだ薬の威力が残っていたのか。」
おれは身体を起して、足を見た。
添え木が当てられて、布でグルグル巻きにされていた。
「骨、折れてるから、しばらくは安静にしててね。」
「やっぱ折れてたか。なんかすまねえな、こんなことになっちまって・・・。けどよ、すぐにカケラが癒してくれるから。」
「うん。太郎冠者さんがね、足が良くなるまでここに居てもいいって。」
「申し訳ない!おれが罠を置き忘れたばっかりに・・・。」
「たいしたことねーから。気にすんなよ。」
普通の人間なら、歩けるようになるまで何日かかるかしれねえ・・・けど、おれには四魂のカケラがある。
カケラの治癒力のおかげで、回復は驚異的だ。明日の昼くらいまでにはなんとか歩けるようになっているだろう。
きっと、おれの回復力に太郎冠者は驚くだろうけど、説明するが面倒なので黙っておこう。
「明日の日暮れ前には、なんとか村に着けるかな・・・?」
「今は、ケガを治すのが先!さ、横になって。」
かごめは背中に手を添えて、布団の上に寝かせてくれた。
キュルルルゥ・・・グゥゥ・・・
かごめの腹の虫の声に、おれはハハハと笑った。
かごめは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「お嬢さん、特製の豚汁を作ってやろう。そっちの兄ちゃんも食べるかい?」
「いや。おれは腹減ってねーから。」
しばらくして、太郎冠者特製の豚汁ができて、それを美味そうにかごめは頬張っている。
美味しいものを食べている時、かごめはこんな表情をするのか。
犬夜叉たちと、行動を共にすることが多くなったとはいえ、おれはまだまだかごめのいろんな表情を知らない。
かごめが嬉しい時、怒っている時、困っている時、暇を持て余している時、眠そうな時、もっともっとたくさんのかごめを知りたい。
と思うのは・・・罪なことなんだろうか?
けど、心で密かに思うくらい、いいよな?別におれは、犬夜叉からかごめを奪おうなんて気持ち、ねえから。
かごめだって、おれに特別な感情を抱くなんてことありえねえし。
おれとかごめは、奈落打倒を目指す仲間。
おれはもう何度それを、自分に言い聞かせただろう。
誰も知らない。おれが、かごめを愛しく、大切に想ってるなんて。
でも時々苦しくなる。かごめに想いを打ち明けたくなる。
打ち明けて・・・どうなるってワケじゃねえけど。
犬夜叉だけじゃねえよ。おまえのことを守りたいって想ってるヤツがもう一人、側にいるってことを、伝えられたらなぁ。
おれの視線に気づいたかごめが顔を向けた。
「ん?」
「あ、い、いや。あんまり美味そうに食ってるから・・・う、美味いのかなってな。」
「すっごく美味しいわよ〜。食べてみる?」
おれはゴソゴソと身体を起した。
「んじゃ・・・一口。」
「はい。」
「え?」
かごめが食べている箸で、口元に運んでくれた。
おれはパクリとそれに食らいついた。
「美味しいでしょ?」
「美味ぇ。」
味はそんなでもなかったけど・・・かごめの箸だったってことが、嬉しくて、多分、美味しいと思ったんだろうな・・・うん。そうだ。きっと。
おれはまた布団に潜り込んだ。
ちきしょう。犬夜叉の野郎!こんなことをしょっちゅうかごめにしてもらってんのか?・・・マジで、羨ましいぜ。
夜更け過ぎ。
小屋の戸口を叩く音で目が覚めた。
かごめも目を覚ましたらしく、身体を起していた。
戸口の方では、太郎冠者が誰かと話をしている。
「誰だ?」
「さあ・・・どうかしたのかしら?」
程なくして、尋ね人は去り、太郎冠者は慌しく言った。
「川の中州に、子供たちが取り残されてる。今から助けに行って来る。」
「はあ?こんな時分になんでガキがそんなところに居るんだよ?」
「夕方、晩飯の魚を捕りに行ったっきり戻ってこなくてな、みんな探していたらしい。
子供たちにはいつも言ってるのに。絶対に川に入っちゃならねえって。あの川は、流れも急で何人も人が死んでる。」
「大人は付き添っていなかったのかしら?」
「付き添っていたもんは、川に流されちまったらしい・・・だから、こんな時間まで分からなかったようだ。村で泳げるのはおれだけだ。」
「太郎冠者さん、大丈夫なの?」
「なあーに。心配はいらねえ。命綱ちゃんと括りつけて川に入るから。そんじゃ、ちょっと行ってくるよ。」
「待てよ!おれも一緒に行ってやる。おれもちょっとは泳げる。」
「兄ちゃん、あんた正気か!?足の骨折れちまってんだぞ。ムリだ!」
「そうよ、蛮骨。私が太郎冠者さんと一緒に行ってくるわ。何かお手伝いします!」
おれはゆっくりと布団の上に立ち上がった。
「足ならもう大分良くなってる。ほらな!」
といいつつも、右足に体重を乗せると多少疼いているのだけれど・・・。
ガキが流されそうになってるって聞いちまったら・・・助けねえわけにもいかねえからな。
昔のおれだったら、絶対にそんなことしねえけど。
それに、かごめ独り行かせて、おれだけここで寝てられっか!
「本当に平気?」
「ああ。急ごうぜ!」
蛮竜は森の中に置き忘れているから、おれは長い棒を突きながら、太郎冠者に付いて行った。
「私の肩に掴まって。」
「助かる!」
「また見直しちゃった。蛮骨のこと。」
「んん?またって・・・???」
「蛮骨って、会うたびに変化してる。そんな蛮骨を見るのが、凄く嬉しいんだ。」
おれはかごめの言葉に、我が耳を疑った。
かごめは、おれのことを見ていてくれた?
「今のおれって、かごめにはどー映ってるんだ?」
「そうね・・・強くなったって言うか、優しくなった。」
「はあ?おれは元々強いぜ。それに、弟想いの優しい兄貴。」
「そういう強さとか、優しさじゃないわよ。人を傷付けてきた分、人の痛みが分かるようになったんじゃない?
本当に守りたいものが、蛮骨にも見つかったのよ。」
「本当に守りたいもの・・・そうだな。おれの守りたいものは―煉骨と蛇骨。こいつらのためなら、おれは命張れる。」
そして、かごめ。けどその役目は、おれじゃねえけどな。
「おれが変われたのは、おまえのおかげだと思ってる。おれ、おまえが居なかったら、今でも多分、犬夜叉とは敵同士だったかも。
不思議だよな・・・人の縁ってもんは。どこでどう結び合うか分からねえ。」
「そうね。見えない糸で、みんな繋がってるのかもしれないわね。
この時代に、みんなと出会えたことは、奇跡のようで―奇跡じゃないのかもしれないわね。」
「運命ってことか?」
「ずっと前から、決められていたことなのかもって思わない?」
「誰に?」
「神さま。」
「はあ?かごめは神さまを信じてるんだな。」
「当たり前でしょ。神さまはこの世にちゃんと居るんだから。」
「おれは信じねえよ。神も仏も信じてねえ。もしもこの世にそいつがいるんだった、なんでおれにこんな運命を背負わせてんだって聞いてみてぇ。」
「神さまは、簡単には答えをくれないものよ。でもいつか、分かる時がくると思うの。」
「神さまは、ずっと先のことまで見通せるのか?」
「そう。だから、この先のことは神のみぞ知る。私たちには分からないわ。」
「ってことは、運命だって自分の手で変えられるかも知れねえんだよな?」
「四魂のカケラのこと?」
「まあ、それもあるけど。難しいかな。」
「他にもあるの?」
かごめが真顔で聞いてきたから、少し焦った。
もしも、少しでも可能性があるのなら、おれとかごめの運命を変えることができるだろうか?
「かごめにはねえのか?運命を変えてみてえって思うようなこと。」
少しの間をおいて、かごめは言った。
「あるよ。私にも・・・でもね、どうすることもできないんだ。」
「そっか・・・おれたち、どーすることもできねえ運命、抱えてんだな。同じだな、おれたち。」
かごめはジロリとおれを睨んで、素っ気無く言った。
「あんたと一緒にしないでよね。」
アハハ・・・その通りだ。
おれみてーなヤツと一緒にされちゃ、たまねえよな。
川原に着くと、篝火で随分と辺りは明るくなっていた。
かなり大きな川だ。中州はちょうど川の真ん中に位置している。
その中州に、3人の子供が身を寄せ合って泣いているのが見える。
どうやってこの中州まで子供らは渡ったのか?ナゾだ。
向こう岸にも、何人もの人の影があった。
中州から上流した所で、村人たちが大きな石で堰を作っていた。
少しでも川の流れを緩やかにしようとしているのだろう。
さっそく太郎冠者は、身体に命綱を結びつけて、川へ入る準備をしている。
おれも命綱を身体に巻きつける。
右足にまだ不安は残るが、左足を踏ん張っていれば、なんとかなるだろう。
「あんまりムリすんな〜兄ちゃん。あんたまで川に流されちまったら大変だ。」
「ああ。」
するとかごめが、なにを思ったか、自分の身体に命綱を巻き始めた。
「お、おい!おまえはここに居ろよ。」
「私も泳ぎは得意なの。クラスで一番なんだから!」
「ダメだ。危ねえし、川の水は冷てぇーぞ。」
「この状況を見てたら、私もなんとかしたくなったのよ。大丈夫!!太郎冠者さん、私もいいでしょ?」
「娘っ子にそんな危険なことはさせられねえだ!兄ちゃんが言うとおり、あんたはここにいろ。」
「でも・・・!!」
「頼むから、ここに居てくれ。おまえにもしものことがあったら・・・おれ、犬夜叉に顔向けできねえだろ?」
「・・・蛮骨が側に居てくれれば、絶対に大丈夫よ。寒中水泳だってやったことあるんだから!!」
ったく・・・かごめって、こんなに聞き分けのねえ女だったか???
けど、なんかおれを頼ってくれてるみたいだし・・・絶対にダメだって言ってもこの調子じゃ、おれをぶん殴ってでも川に入って行きそうな勢いだぜ。
勇気があるっつーか、怖いもの知らずっつーか。
いつものことながら、その度胸には、感心する。
「分かった。おれがガキをおまえに渡すから、受け取ったらすぐに岸に上がれよ。」
「ええ。」
「兄ちゃんも、お嬢さんも、油断は禁物だ!!浅い川も深く渡れっていう諺もあるくらいだからな。慎重にだぞ。」
ということで、おれと太郎冠者とかごめは、松明を片手に、川へと入って行った。
おれたちの命綱は、しっかりと木に巻きつけられ、村人たちも握り締めてくれている。
これが切れるはずは無いと、安心しきっていた。
川の流れは、堰のおかげでいくらか緩やかになってはいるが、それでも足を踏ん張っていないと、簡単に身体を持っていかれそうだった。
ついつい、右足のことを忘れて力を入れてしまう。そのたびに、激痛が走る。
こりゃ、村に戻るのがまた遅れそうだな。もう一晩安静にしねえと、骨の再生がおっつかねえ。
腰の辺りまで水につかった辺りで、川床に足を取られて滑りそうになったおれを、かごめが支えてくれた。
「頑張って、蛮骨。しっかりっ!!」
「ありがとよ!」
何気に視線を川面へと移したら、川の流れにかごめの着物がひらひらとなびいて、めくれ上がっている。
松明のおかげで、か、かごめのむき出しの足が随分上までよく見える。
バカやろーおれっ!!こんな時に、何考えてんだよっ!!け、けど・・・いい眺めだぜ。
「どうかした?」
「あ、あのよ。今度川に入る時は、そーゆー着物は着ねえ方がいいかもな。」
「え?」
ようやくかごめも、そのことに気づいたらしく、おれをドンと突き放した。
「もっ!!ジロジロ見ないでよねっ!!いやらしいっ!!」
「しょ、しょうがねえじゃねえかっ!!見えちまったもんは!!」
「今度見たら、殺すから。」
「おれ、簡単に死なねーよ?」
「カケラ、取ってやるんだからっ!!」
かごめはバシャバシャとおれに水をかけてきた。
「分かったよ〜もう見ねえから。」