Because of You【2】

 

なんとか川の中州の子供たちの所まで辿り着いた。

おれは、一人目の子供をかごめに渡した。

子供は泣きながらかごめにしがみ付いた。

「もう大丈夫よ。よく頑張ったね、偉いわね。」

「かごめ。岸に向かえ。おれたちも、子供抱えて戻るから。」

太郎冠者がかごめの命綱を引くようにと、岸にいる村人たちに手を挙げた。

かごめは片手に子供をしっかりと抱えて、慎重に中州から離れて行った。

かごめの握り締める松明の明かりが、次第に遠ざかって行く。

「じゃ、兄ちゃん。そっちの子を頼むよ。」

おれと太郎冠者はそれぞれ子供を抱えて、川へと入った。

岸と中州の真ん中辺りで、深みに入ってしまったらしく、思わず右足を突いてしまった。

その拍子に、おれと子供は一瞬だけ水に沈んだ。

しかも、松明を川に落っことしてしまった。途端に辺りが暗くなる。

子供が激しく暴れて、物凄い力でしがみ付いてきた。

あんまり暴れるので、何度も子供から手を放しそうになる。

もうちょっとおとなしくできねえのかよっ!!

子供が顔にしがみついて、前が見えない状態になってしまった。

「ガキッ!!肩に掴まれっ!!顔に掴まるんじゃねえよっ!!」

「怖いよ!!怖いよ!!」

「分かったから!!頼むからよ、肩に掴まってくれよ。」

「絶対に放さない?」

「ああ。放さねえよ。」

やっと子供が肩に掴まってくれて、抱えやすくなった。

岸の方を見ると、なんとかかごめは辿り着けたようで、ホッとした。

やれやれと思ったのもつかの間だった。

さっきまで、確実に命綱が引っ張られている感触があったはずなのに・・・なんか妙じゃねえか?

腰にある命綱を確かめた。

う、うそだろ・・・?冗談だよな?

命綱が解けていた。おそらく、子供がジタバタ暴れたせいで、命綱が解けちまったのかもしれねえ。

急いで岸に戻ろらねえと。

真っ直ぐ進んでいるつもりだったのに、大きく逸れている。

なんとなく流れに押されているような感じもしないでもない。

太郎冠者は、すでに岸に上がっていた。


岸では、かごめも一緒になって、命綱を手繰り寄せている。

「おい、お嬢さん。あの兄ちゃん、おかしくねえか?松明の明かりがねえぞっ!?」

かごめの手に、命綱の先端が手繰り寄せられた。

「命綱が解けてる!!」

「なんだって?」

かごめは慌てて、叫んだ。

「蛮骨ーーーっ!!岸の方へ寄って!!」

かごめの声が聞えた。

おれは流されながらも、懸命に岸へ近づこうとした。

やっとの思いで岸辺に辿り着くことができたが、浅瀬になっていないその場所は、岸まで高さがあった。

子供を抱えていては、上れそうにない。

かごめが駆けて来た。

「良かった・・・流されなくて!!」

「わりぃ・・・このクソガキ、暴れやがっておれの命綱解きやがったっ!!」

おれは腕を上げて子供をかごめに渡した。

子供はおれの顔を踏み台に、かごめに飛びついた。

「このお兄ちゃんがおいらを水に沈めようとしたよ〜〜〜怖かったよぉ〜。」

「もう大丈夫よ!!」

「ああっ!?てめぇークソガキッ!!もーいっぺん言ってみろっ!!」

太郎冠者がやって来て、かごめは太郎冠者に子供を渡した。

おれは水から顔だけ出して、かごめを見上げた。

「おれのこと、また見直したか?」

「うん。見直した!!」

かごめが手を差し伸べた。

その手に掴まろうと、おれは手を伸ばした――その時だった。



「堰が壊れたーーーっ!!みんなーーーっ!!岸から離れろーーーっ!!」



「なにっ!?」

堰き止められていた水が一気に流れ込んでくるのが見える。

「蛮骨っ!!急いでっ!!」

かごめがおれの手を掴んで引き上げようとした。

水は一気におれの方へと向かってくる。

「放せっ!!」

「いやっ!!」

「バカッ!!放せってっっっ!!」

おれの身体は水流でフワリト浮かんで、かごめと、目と目が合った。

次の瞬間、おれは物凄い勢いの流れに身体を持っていかれた。

かごめっ!!


おれは、かごめの手を握り締めたままだった。

二人の身体は激流に翻弄されながら、上も下も分からない状態で流されている。

風に吹かれた木の葉のように身体が舞い上がる。

水面に上げられたり引きずりこまれたり・・・苦しくて、息ができない。

けど、この手だけは―絶対に放すものかと、必死でかごめの手を握り締めた。






しばらくして、川の流れが落ちついたようで、おれたちはやっと水面に顔を出すことができた。

「はあ・・・かごめっ!!大丈夫かっ!?」

「大丈夫・・・なんとか生きてる・・・・・・」

「だから手ぇー離せって言ったろ!」

「放せるわけないじゃない!」

「とにかく、岸に上がろうぜ。」

「そうね。岸はどっちかしら?」

篝火はすでに見えない。かなり流されたに違いない。

月に薄っすらと雲がかかっていて、一寸先が見えない状態だ。

漆黒の闇の中を、流されている。

「やだ・・・どうすればいいの?どっちに行けばいいの!?何にも見えないっ!!」

かごめはおれの腕を掴んだまま、闇雲に方向を探した。

「あんまり動くな。体力がもたねーぞ。」

「岸を探さなきゃ!!ねえ、岸はどっち!?溺れるのはもういやよっ!!」

混乱するかごめの肩を、おれは強く抱きすくめた。

「落ち着け!大丈夫だから!!溺れねえように、こうしててやるから!!

・・・かごめ・・・・・・心配いらねえから。月が出りゃ、岸がどっちだか分かる。」

「・・・うん。」


言いようのない不安と恐怖が、おれたちを包み込んでいた。

夜空の月は、一向に顔を出す気配がない。

いったい、どこへ流されているのか・・・岸はどこにあるのか。

おれとかごめは、しっかりと指を絡ませて、離れねえように寄り添った。

「蛮骨、ありがとう。なんだか、怖くなくなってきた。」

「・・・ほんとはおれ、無性に怖い。」

「え?」

「おまえを・・・危険な目に合わせちまってる。」

「蛮骨が側にいてくれるから、平気。」

「そっか・・・けど、こういう時は、必ずあいつが助けに来てくれるんだもんな。」

「・・・犬夜叉は来ないわよ。」

「来るかもしれねーぜ。」

「来ない。桔梗を想ってる時の犬夜叉は・・・私のことなんかこれっぽっちも頭の中に無いんだから。

蛮骨だって、分かってるでしょ。犬夜叉がどれだけ桔梗を想ってるか。」

「犬夜叉は、桔梗と同じくらい・・・いや、桔梗以上に、おまえを想ってる。」

「本当の気持ちは誰にも分からないわ。簡単に、忘れることなんてできないわよ・・・・・・桔梗を忘れてなんてこと、口が裂けても言えない。」

「悲しいな・・・おまえも、犬夜叉も。こんなにお互いが想い合っていても、信じ合えねえなんて。」

「私だって信じたい!信じたいけど・・・私には踏み込めないの。あの二人の間には・・・そんな勇気ないし。」

「それでもおまえは、これからもずっと犬夜叉を想い続けてくんだろ?」

「・・・・・・先のことは、分からない。神さまだけが知っているのかもね。」

「また神さまかよ・・・。んじゃーさ、変えてみねえか?」

「なにを?」

「おれたちの運命を変えてみようぜ。」

「な、なにをどう変えるのよ?」

「例えば・・・おれがおまえに、好きだって言ったらどうなる?」

「はあ?」

「かごめ。おれはおまえのことが好きだ。」

「じょ、冗談はやめてよね!からかわないでよっ!こーゆう時に・・・おかしいわよ!」

おれはかごめに向き合って言った。

「冗談なんかじゃねーよ。マジで、おまえが愛しいと想ってる。忘れろ、あいつのことなんか。」

ついに・・・言ってしまった。

おれはかごめに、愛の告白をしてしまった!!

かごめはじっとおれの目を見て、ウソか本当か、それを見極めているように思えた。

けど、おれの気持ちに、ウソも偽りもない。

ごめの手を取って、おれの胸に当てた。

「ウソじゃねーよ。こんなにおれ、ドキドキしてるんだぞ!伝わるだろ?この胸の高鳴りが。」

「ごめん。・・・鼓動・・・感じられないんだけど。」

しまった!おれは死人だから、心の臓は止まったままだった!!

「と、とにかく!ウソじゃねえってことだけは信じてくれ。それとも・・・やっぱ、おれじゃダメか?頼りねえか?」

かごめは微笑んで言った。

「そんなことないよ。すっごく頼りになる。蛮骨といると、落ち着くし、素直になれる気がする・・・。」

その時、月にかかっている雲が晴れて、ようやく岸がどっちにあるか分かった。

「あ、岸よ!!」

「お、おう!!」

おれたちは必死で岸を目指した。






岸に辿り着いたはいいが、右足がどうにもこうにも具合が悪い。

かごめに支えられてヨロヨロと歩いたけれど、へたり込んでしまった。

「やっぱり右足、まだダメみたいね・・・。固定しなきゃ。枝を探してくるわ。」

立ち上がろうとするかごめの腕を、おれは引き寄せた。

「かごめの気持ち・・・聞かせてくれよ。」

「い、今言わなきゃダメ?」

「今聞きてえ。」

「すぐにはムリよ・・・犬夜叉を忘れることなんてできない・・・・・・でもね、忘れさせてくれる?」

おれはかごめを抱き寄せて、耳元で囁いた。

「おれが、忘れさせてやる。だからもう、苦しむな。」

「うん・・・。」

かごめはスッとおれの腕の中から離れて、立ち上がった。

「枝、探してくるわね。火も起こさなきゃ。」

「あんまり遠くには行くなよ。」

かごめは微笑んで茂みの中へと入って行った。



おれは、ずっと隠していた気持ちを打ち明けることができて、心が軽くなると思ってた。

なのにどうして・・・まだ苦しいんだろう。こんなにせつないんだ。






たき火の炎を見つめながら、おれたちは寄り添っている。

「寒くねえか?」

「とっても温かい。」

その言葉に、泣きそうになった。

この寒空の下、おれは、かごめを温めてやることができねえ。

かごめの肩を包んではいるけど、おれには体温なんてないからな。

けどそれでも、かごめは温かいと言ってくれた。

おれの方が、温もりを感じている。かごめの温もりに包まれていた。

こうしている間にも、おれはかごめからじわじわと体温を奪っているに違いない。

だから、かごめが寒くならねえように、小枝を何度も何度も火に投げ入れた。

こんなことくらいしか、今のおれにはできねえ。

それが無性に、腹立たしくて、悲しくて・・・血の通った生身の身体をもう一度取り戻せたら、どんなにいいだろう。

「蛮骨。そんなに炎を大きくしなくても大丈夫だから。」

「けど、これを絶やすわけにはいかねえからな。」

「ありがとう・・・優しいんだね、蛮骨。」

「なあ、かごめ。」

「なあに?」

見上げるかごめを、おれは見つめた。

かごめがゆっくりとまぶたを閉じて、おれは吸い込まれるように顔を落とした。

触れ合う唇と唇に、玉響の音が響き、胸の高鳴りを早くさせた。

それは刹那の出来事だったかもしれない。

でもおれたちは、永遠を願った。

今この瞬間、この場所で、おれとかごめは、新たな運命の歯車を回し始めた。

「夜明けにはまだまだある。少し眠ってろ。」

「一緒に起きてる。いいでしょ?」

「おれの前でそんなにムリしなくてもいいぜ。眠ってていいから。」

「・・・・・・うん。」

かごめはおれの肩に頭をもたげて、すぐに眠りに堕ちていった。

深い寝息を聞きながら、炎を見つけていると、なんだかおれまで眠くなってきた。

こんなに眠くなることなんて、あんまりないのに。

物凄く眠い。

この感覚・・・多分きっとこれが、安らぎってもんなのかなぁ。



何度か睡魔と闘った末、おれも眠りに堕ちてしまった―――


明け方近くに、太郎冠者と数人の村人たちがおれたちを発見してくれた。

一晩中、おれたちを探してくれていたらしい。

おれたちは村人に背負われて、太郎冠者の村へ運ばれた。

幸い、かごめは風邪をひくこともなく、一安心だ。

おれの右足は、やっぱりあともう一晩くらいは、動かさねえ方がいいだろう。

太郎冠者の家で、今夜は世話になることにした。

村の村長がおれたちに昨晩の礼を言いにやって来たり、子供らの親たちが礼にやって来たりで、なんか落ち着かなかった。


おれとかごめは、太郎冠者の家の縁側に座って、夕暮れを眺めていた。

「ねえ、蛮骨。」

「ん?」

「私たちのことなんだけど・・・。」

「ん・・・。」

「しばらくは、みんなに秘密にしておいた方がいいと思うの。」

「そうだよな・・・今はその時期じゃねえかも。おれたちのこと知ったら、みんな驚くだろーな。」

「犬夜叉には、折を見て私から話す。」

「言えるのか?犬夜叉に。」

「ちゃんと言わなきゃ。」

「今は、おれたちだけの秘密だな。」

「うん。二人だけの秘密。」

かごめを抱き寄せて、空を見上げた。

「かごめ。」

「なあに?」

「後悔しねえよな?」

「後悔なんか・・・するわけないじゃない。犬夜叉のこと、忘れさせてくれるのは蛮骨しかいないでしょ。」

「だよな〜おれしかいねーよなぁ〜。」

かごめにそんなことを言われて、おれは完全に舞い上がっちまってた。

これから、かごめと共に、旅ができる!

それだけで、嬉しかった。

夕日に照らされているかごめを見ると、なんだかたき火の炎に照らされていた時のかごめを思い出した。

とても綺麗だと思った。

「かごめ♪」

頬に口付けをした。

と、その時、空を見上げてかごめが呟いた。

「犬夜叉・・・・・・」

その言葉は、おれを現実に引き戻した。

かごめの視線の先を見ると、きららに乗った犬夜叉が、こっちに向かって来てるじゃねえか!

おれたちは、咄嗟に身を離した。

まだ地上とはかなり距離があるが、きららの背から、犬夜叉が飛び降りた。

「かごめーーーっ!!」

地面に降り立つや否や、犬夜叉はかごめを見て、安堵の表情を浮かべた。

「心配したぜ・・・ここにいたのか!」

「ご、ごめんね。いろいろあって・・・。」

犬夜叉はおれに視線を向けた。

「その足、どーした?」

「へへへ・・・ちょっとヘマやっちまってよ、骨砕けちまった。再生するまで一晩はかかりそうだな。」

「そういうことなのよ。」

そこへ太郎冠者が夕餉ができたと二人を呼びに来たのだが、見慣れない風貌の犬夜叉に驚いて腰を抜かした。

「わぁっ!!よ、妖怪だぁ!!」

「太郎冠者さん!!大丈夫です!!犬夜叉は妖怪じゃありません。半妖なんです。」

「は、半妖?ん・・・聞いたことはあるだが・・・。」

「おう、男!かごめが世話になったな。蛮骨はもう一晩預かっててくれ。」

「え?ちょっと、犬夜叉?」

「帰るぞ。」

「帰るって・・・私たち、ここに泊らせてもらうんだけど。」

「犬夜叉。てめぇーだけ先に帰ってろ。おれたち明日村に帰るから。」

「かごめはおれが連れて帰る。おまえは明日迎えに来てやらぁ。」

犬夜叉はグイッとかごめを引き寄せた。

「離してよ、犬夜叉!蛮骨だけここに置いてけないわよ!だったら、蛮骨も一緒に連れて帰りましょ。」

「きららは二人しか乗せられねえ。残念だったな〜蛮骨!んじゃーなぁー。」

と、犬夜叉はかごめを連れて、あっという間に飛び去って行ってしまった。

「こらぁーーーっ!!待ちやがれっっっ!!」

「蛮骨ーーー!!明日迎えに来るからねーーー!!」

あーあ・・・行っちまったよ、かごめ。

けどま、あれで良かったのかもな。

犬夜叉が迎えに来たのに、かごめを連れ戻せなかったじゃ、他の連中がヘンに思うだろうし。

「じゃ、兄ちゃん。夕餉にしよう。」

「お、おう。」






次の日、きららに乗って迎えに来てくれたのは、蛇骨だった。

「蛮骨の兄貴ぃ〜〜〜!!かごめから聞いたぜ!!無事で何よりだなっ!!」

抱きついてくるんじゃねえよ・・・ったく!!

「骨はもう再生されたのか?痛くねえか?」

「もう再生された。ほら、この通り。」

おれはその場で足踏みして見せた。

「じゃ、帰ろうぜ、兄貴。」

おれは太郎冠者に礼を言って、その場を後にした。

楓の村に戻る前に、森の中に置き忘れていた蛮竜を取りに行った。


村へ戻る途中、眼下に川が見えた。

昨晩、おれとかごめが流された川だ。

改めてみてみると、こんなに広くて、急流だったのかと思い知らされた。

早く村に戻ってかごめに逢いたい。

おれの気持ちはきららよりも早く、かごめを目指していた。






「今戻ったぜー。」

楓の小屋に戻ったおれに、かごめが飛びついた。

「蛮骨!お帰りっ!!」

「かごめ!!ただいまっ!!」

おれもガシッとかごめを受け止めた。

おれたちの間に、蛇骨が割って入った。

「なんで抱き合うかな?」

「大兄貴、心配したぜ。」

「煉骨。すまねえ心配かけちまってよ。」

弥勒と珊瑚は、楓と畑に行っているらしい。

「蛮骨。きららを返したらとっとと帰れ。」

相変わらず、ムカツク言い方をするな、犬夜叉。

「言われなくても帰るぜ。じゃーなぁ。」

おれたちは小屋を出て行こうとしたら、かごめが引き止めた。傍らに、薬箱が用意されている。

「蛮骨、待って。足の具合、見せて。」

おれはまた戻って、かご目の前に右足を出した。

犬夜叉は、おれの足首をマジマジと見ている。

「かごめ。もう治療の必要はねーだろ?すっかり良くなってんじゃねえか。」

「そんなことないわよ。犬夜叉は知らないでしょ。蛮骨がどんな大怪我を負ったかなんて。」

「かごめぇ〜、犬夜叉の言う通りだぜ。蛮骨の兄貴はもうすっかり良くなってる。

なあ!さっきおれに見せてくれたし。」

おれは蛇骨の頭を一発殴った。

「そうなの?蛮骨。」

「え?あ・・・ちょっとまだ痛ぇーかな。イテッ・・・。」

なんておれはウソを吐いてみた。

「ムリしちゃだめじゃない。今朝、お家に帰って、いろいろとお薬持ってきたのよ。まずは湿布しなきゃね。」

呆れ顔で犬夜叉が言った。

「けっ。大袈裟なんだよ、かごめ!蛮骨もウソクセえ!」

かごめだって、分かってる。

おれにもう治療は必要ねえってことくらい。

でもこうして引きとめてくれてるってことは、少しでも一緒に居たいって思ってるからだよな?

おれたちは理由がねえと、こうして一緒には居られねえからな。

しばらくはこんな感じで、みんなの目を誤魔化すしかねえ。

奈落打倒に向けて、おれたちと犬夜叉たち、やっと分かり合えたんだ。

おれとかごめのことで、余計な水は注したくねえ。

けど、良かったぜ。犬夜叉が鈍感なやろーで。


がしかし。鈍感じゃねえヤツもいる。

塒に着いた途端、煉骨がおれの腕を引っ張り寄せて、蛇骨に聞かれねえように耳打ちしてきた。

「なんか、あったのか?かごめと。」

おれは、動揺を必死に押さえながら普通に返事をした。

「なんにもねーよ。」

「かごめのやろう、大兄貴が戻ってくるまで、なんか心ここにあらずって感じだった。けど、大兄貴の顔を見た瞬間、表情が変わったからな。」

そんなところまで観察していたのか。

けどまぁ、煉骨になら・・・バレても問題はないだろう。

でも、敢て言うことでもねえ。知れたら知られた時だ。

「なになに?なに二人でコソコソ話してんだよぉ〜!!おれにも教えろ!!」

おれは、くだらない話題でその場をやり過ごした。

蛇骨と二人で酒を飲みながら、大笑いしたりして。

煉骨はおれたちの話を聞き流していたが、先に寝ると言って、その場にゴロリと横になった。

蛇骨もしばらくして、酔いつぶれたのか、眠ってしまった。

話し相手がいなくなり、おれも横になった。

かごめ、なにしんだろーな。

もう、寝ちまってるか。

想いを打ち明けてから、気がつけば、かごめのことばかり考えている自分がいる。

かごめの温もりに触れて、かごめの唇に触れてから・・・ずっと。










おれはもう、かごめを知らなかった頃に戻れなくなりそうだ。

 

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