両腕の自由になった蛮骨の前に、兵はあっけなく全滅した。
ごうごうと燃え盛る炎に、いくつもの死体が重なる。
「蛮骨、早く!」
蒼空が叫ぶ。
もはや辺り一面が炎だ。一刻も早く逃げなければ。
蛮骨は身を翻すと、蒼空の背に飛び乗った。
ダイスケの身体を支えると、狼がそれを合図に駆け出す。
ダイスケの腕には、未だに妹が抱かれていた。
炎の道を、狼が全速力で駆け抜ける。
熱気で、目を開けるのもつらかった。

燃え盛る山から飛び出してきた狼を見つけて、煉骨と蛇骨は急いで駆け寄った。
「蒼空!?大兄貴もいるか!」
「おう、いるぜ……」
ぐったりと、蛮骨は蒼空の背から降りる。
「ダイスケっ、ダイスケ!!」
蛮骨の腕に我が子を見て、ダイスケの母親が駆けつけた。
「火傷はしてるが、生きてるぜ…」
母親に子供を渡し、蛮骨は地面に座り込む。安全な場所に来て、力が抜けた。
その隣に、蒼空もぺたりと座る。
母親が、ダイスケを強く抱きしめた。
「ダイスケっ……」
「母ちゃん…ごめん。俺、さよを助けようとして……」
ダイスケは腕に抱いた妹を見せた。
蛮骨の予想通り、それはすでに骸だった。
「さよ……」
それを目にして、ダイスケの両目から涙が溢れてくる。
母親も顔をくしゃくしゃに歪めて、子供を抱く手に力を込めた。
「お前のせいじゃないよ……!お前が生きてて良かった…っ」
堰を切ったように涙が溢れ、親子は大声を上げて泣いていた。

蒼空に寄りかかって蛮骨が休んでいると、親子がやってきた。
母親が泣き顔で深く頭を下げる。
「蛮骨さん、本当に…ダイスケを助けてくださってありがとうございます」
「兄ちゃん、ごめんなさい」
蛮骨は苦笑してダイスケを撫でる。
「怒らねえでやってくれよ。こいつ、俺が行った時、少しも泣いてなかったんだ。
妹抱えて、炎と戦ってたぜ。強い子供だな……」
母親は、声をつまらせて頷いた。
と、山の麓の方から太鼓の音が聞こえてきた。
「お、戦も終わったみてーだな。城も焼けちまったし、皆と合流しねーとな」

山の大火事から数日。皆はふもとの里に滞在していた。
戦はこちらの圧倒的な勝利で、睡骨たちは存分に楽しんできたようだ。
「負けた敵方の連中にも協力させて、ここらにでっけえ城を新しく建てるんだとよ」
酒を持った睡骨が、蛮骨の隣に腰を下ろして言った。
「へぇー」
蛮骨は火傷の部分に薬を塗っている。
それをちらと見て、睡骨は息をついた。
「話は聞いたけどよ、何だってガキの一人助けるために城へ戻ったんだ?」
「ん?気まぐれだぜ?」
にやりと笑う蛮骨に、睡骨は頭をかかえる。
「気まぐれで命投げ出すようなマネすんなよ」
「別に投げ出してねーよ。絶対戻ってくるって確信してたからよ」
「確信、ねぇ…やっぱ首領には敵わないか」
ふっと笑い、蛮骨に酒をつぐ。
「いらねー。外行ってくる」
「ダイスケとか言う小僧のとこか?」
睡骨の問いには答えず、蛮骨はただ笑って家を出た。

小さな墓に手を合わせている子供の背を、ポンと叩く。
「あ、兄ちゃん」
「よぉ。俺ら、今日中にここを発つからな」
「えっ、もう行っちゃうの!?」
「俺たちは雇われ兵だからな。ダイスケ、元気に暮らせよ」
「そっか……」
子供は顔をうつむけた。
「縁がありゃあ、また会うこともあるだろうさ」
「じゃ、じゃあさ兄ちゃん…」
ダイスケは蛮骨の裾を引っ張る。
蛮骨はしゃがんで彼と目線を合わせた。
「兄ちゃん。俺、強くなるよ。兄ちゃんとまた会うまでにうんと強くなるから。
だから、また相撲とってくれる?」
「おう、いいぜ。俺より強くなってろよ」
「うん!!」
子供の小さな手が、強く蛮骨の手を握った。
里の者たちに見送られて、七人は旅立った。
「にしても、大兄貴って結構子供好きだったんだな~。
俺初めて知ったぜ」
「ええ?そうか?」
子供好きと言われて、蛮骨は首をかしげた。
「なんだ、自覚ナシかよ。あ、そうか。大兄貴が精神的に子供だから……」
げぃんっ、と鈍い音が響いた。
頭を押さえる蛇骨と、ムスムスと先を行く蛮骨。
その様を眺めて煉骨は一人ため息をつく。
(確かに、平和だったかもしれねぇな…)
子供の遊び相手になっていた日々も。
また、いつもの日常が始まった。
戦を求めて旅をする、そんな日々が。

<終>

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