幽霊の新之助が言ったとおり、雨は夜が明けても降り続いていた。勢いが弱まっている気配もない。
新之助は朝から蛮骨や蛇骨のまわりをふよふよと飛び回っている。
「ああもうっ、うっとおしいっつーの!」
蛇骨はいらいらとしているが、蛮骨はそうでもない。
「好きなようにさせてやれよ蛇骨。久々の客で、珍しいんだろうさ」
――さすが、蛮骨は大人だねぇ
くすくすと笑う新之助に、蛮骨は不思議そうな顔を向けた。
「何で俺の名前知ってるんだよ」
昨日の夜から、まだ名を教えていないはずだが。
――蛇骨が呼んでたんだよ。情けない声で。
「う、うるさいっ。情けないは余計だ!」
蛇骨は顔を真っ赤にして怒るが、新之助はこたえた風もない。
二人のやりとりを見て、面白いなぁと蛮骨は思う。
十にも満たない子供の幽霊に本気で怒っている蛇骨と、それを軽くあしらって遊んでいる新之助。
蛇骨は怒ってすぐに出て行き、部屋には蛮骨と新之助の二人になった。
「お前は、死んでからずっとここにいるのか?」
着替えをしながら、蛮骨は訊いた。
昨日着ていた着物はびしょびしょなので、違う着物に袖をとおしている。
――ここで、住職をしていた爺さまと一緒に暮らしてたんだ。
でも、爺さまは死んでしまった。
こんな山の中だし、ひとりで里に下りることもできなくて、そうしてる内においらも死んじゃったってわけ。
たった一人の身内だった祖父が死に、自分も飢えて死んでしまったのか。
「親は?死んだのか?」
――流行病でね。だから爺さまに預けられた。
ぽつりと、新之助は言った。
――おいらだって、成仏して、こんな淋しいところからさっさとオサラバしたいよ。
だけど、どうしたらいいのかわからないんだ。
誰も迎えにきてくれないし、どうやったらあっちに行けるのかなぁ……?
さすがにこれは、蛮骨にもわからない。
蛮骨は新之助を哀れに思った。
こんな薄暗い山奥で、小さな子供がたった一人で過ごしているのは、とても淋しいのだろう。
わざと明るく言ってのけようとする新之助の頭に手を置くようにしてみた。
本当に乗せてもすりぬけてしまうので、あくまでも見かけだけだが。
それでも新之助は、たいそう嬉しそうな顔をしたのだった。
「俺たちがここにいる間に、お前を成仏させられればいいんだがな……」
――ほんと?ほんとにそう思ってくれてるの?
「だが、方法がわからねぇぞ」
――おいらも一生懸命考える!蛮骨っ、ありがとう!
言うと、ぴゅーっと新之助は飛び回って出て行った。蛇骨のところにでもいったのだろう。
やれやれと、蛮骨は苦笑した。
あの幼い頭で一生懸命考えて、果たしてどれほどの案が出るのだろう。
だが蛮骨も、気まぐれで言ったわけではない。
自分の言葉に責任を持たねばならないのは、よくわかっている。
着替えを終え、蛮骨も皆のもとへと向かった。
炉を囲んで朝食を作る仲間たちの頭上を、新之助がぐるぐると飛び回っている。
やってきた蛮骨を認めて、煉骨は渋い顔をした。
「大兄貴、また余計なこと言ったんだろ」
「いいじゃん別に。お前たちを巻き込むつもりもねえし」
「大兄貴は人が良すぎるんだよ!」
「だってよぉ、やらねぇと後で絶対後悔することってあるだろ?
あの坊主をあのままここに残したって、後味悪いじゃねぇか」
蛮骨は自分の思ったように行動しているだけだ。けして人助けが趣味ですなどというものではない。
粗末な朝餉を口にしながら、蛮骨は考えた。
成仏させるとはどういうことか。
考えてみると、この極悪非道な自分にはまるで縁のなかった言葉だということに、ようやく思い至った。
(べ、別にいいじゃねぇか……)
ならば、考え方を変えてみよう。専門用語を使うからややこしくなるのだ。
普通の死人にあって、新之助にないもの…。
それがわかれば、新太郎も他の霊たちのように旅立てるかもしれない。
頭の周りを新之助が飛び回るので、睡骨はうざったそうに手を払った。
――蛮骨、あのオッサンに追い払われたよぅ
「おっさんっ!?」
睡骨はかなりショックを受けたようである。
暗く沈んでいる彼を見やり、蛮骨は新之助に耳打ちした。
「新之助、謝れ。睡骨はあれでもまだ26だ」
子供の新太郎にとっては、何歳であってもオッサンはオッサンに見えるのだが、ここは素直に頷き、すぃ~っと睡骨のもとまで飛んだ。
――なあなあ、ごめんなぁ…
睡骨は顔を上げずにぼそりと呟いた。
「俺に近寄るな。俺はガキが嫌いだ……」
言った瞬間、彼の身体に激痛が走った。
「うぐっ…」
ばたりと倒れる。
煉骨が驚いて見上げると、蛮骨が背後から手刀を食らわせたところであった。
「お…あに…き……?」
どうしたことかわからず煉骨が口をぱくぱくさせていると、睡骨がよろよろと起き上がった。
だがそこには、いかつい隈取りの形相はない。
「いたた……どうしました、蛮骨さん」
首筋を押さえて涙目になっているのは、医者の睡骨だ。
「睡骨、子供の相手は好きだろう?」
「はい、大好きですが…?」
さっきとはまるで逆の答えだ。意味がわからず新之助は目を丸くしている。
「なら、こいつと一緒に遊んでやってくれ」
睡骨は蛮骨の指を追って新之助と目があった。
「こちらは…?
どなたかの隠し子ですか?」
「ちがうわ!!」
突っ込んだのは煉骨だ。
「それにしても、随分顔色がわるいですね…。
青を通り越して白くなってますよ……」
睡骨は医者の顔になって手を伸ばした。
新之助の頬に触れようとした手は、しかしそこをすり抜けた。
「…………へ?」
睡骨は言葉がでない。
「睡骨、新之助は幽霊だから、触れないぞ?」
事も無げに蛮骨は言う。睡骨はかくかくと首を巡らせ、蛮骨の目を見上げた。
「ゆ……?」
「幽霊」
――そ、ユーレイ
睡骨の顔がみるみるうちに引きつり、真っ青になった。
「おい、お前が顔色悪くなってる…」
蛮骨が言い終わる前に、雨音をつんざくほどの悲鳴が、朽ちた寺に木霊した。
「な、なんだよ…」
思わず耳を塞いだ蛮骨は、驚いた様子で睡骨を見た。
睡骨はその場から、座ったままの体勢で勢い良く後退る。
「ああああああなたはっ、今度は何ですか!!
私に何をさせるつもりです!?
私はただの医者でしかないと、今までも何度も何度もっ!!」
「別に大したことじゃねぇ。新之助の相手をしてやれ。
こんな小せぇ幽霊、お前でも大丈夫だろ」
まさか蛇骨と同じ反応をするとは思わなかったが。
睡骨は新之助を見た。
たしかに、まだあどけない幼子である。改めて見れば、おぞましいわけでもない。
何だか無性に恥ずかしくなってしまった。
「い、いいですよ。そこまで言うなら…
私が相手してあげましょうじゃないですか」
なぜか意気込んでいる睡骨に新之助を任せると、蛮骨は周囲を見回した。
朝なのに、暗い。雨のせいだ。
「蛇骨はどうした」
「さあ?」
寺の中にいるのは確かだ。こんな山奥で、こんな雨で、外に出る意味がない。
そこへ、霧骨がやってきた。
「大兄貴、蛇骨なら向こうの廊下にいたぞ」
「なにやってんだ、あいつは」
「さーな。窓から外を眺めてたぜ?」
蛮骨は蛇骨のもとへと行ってみた。
霧骨の言う通り、蛇骨は廊下の窓を開けて、ぼーっと外を眺めていた。
「ああ、蛮骨の大兄貴…」
「何してんだよ?」
「雨、止まねぇなぁと思ってよ」
確かになぁと、蛮骨も外を眺めた。
この調子で降り続けば、どこかで洪水が起きてもおかしくないのではないか。
「こんなとこに寺なんか作って、どうすんだろ」
こんな山奥では、来るのだけで骨だ。この寺を頼りにする者など、いたのだろうか。
蛇骨の言葉に頷き、蛮骨は視線を巡らせた。
「あ、でもよぉ蛇骨、あそこに墓があるぜ」
蛮骨が指差す先には確かに、たくさんの墓が密集している墓地があった。
「あんなに墓があるってことは、それなりに……」
ふと、蛮骨は息を詰めた。
「そうか…」
「ん?どうした兄貴」
きょとんとしている蛇骨を残して、蛮骨は踵を返した。来た道を走って戻る。
「おい、大兄貴?」
蛇骨が呼んでも振り返ることもしなかった。
「新之助!」
部屋に戻ると、新之助は睡骨の前に座って、目を輝かせていた。そこに蛮骨の邪魔が入ったので、むすっとする。
――なんだよ蛮骨。
睡骨からお伽話を聞いてるんだよぅ
「新之助、お前…自分の墓、ないだろ…?」
新之助は首を傾げた。
――墓?うん、ないよ。おいらが死んだとき、ここには誰もいなかったから。
「それだ」
何がそれなんだとでも言うように、新之助はますます首を傾けた。
「他の死人にあって、お前にないものだよ」
そう、孤独に死んだこの子供には、墓などあるはずがなかったのだ。
「よし、お前に墓を作ってやるぞー」
新之助は満面の笑みを浮かべた。
――蛮骨がつくってくれるの!?やったー!
「でも蛮骨さん。今は無理ですね。雨が降ってて、とても墓なんてつくれませんよ…」
歓声に、睡骨が水をさす。蛮骨はじとりと睡骨を睨んだ。
「そんなのわかってる。晴れたらだよ、晴れたら」
そういえば、と蛮骨は新之助を見つめた。
「お前の骨はどこだ?」
あっ、と新之助は声をあげる。
――獣たちに持ってかれちゃったよぅ……
「じゃあ、何か形見になるようなモンは…」
――ないよ。何にも持ってなかったから。
蛮骨は困った。
埋めるものがないと、墓として成り立たない。ただの石の置物になってしまう。
「…まあ、それは後回しにしとくか。探せばなにか出てくるかもしれねぇし」
次の日になると、雨は嘘のように上がっていた。だが、二日続いた土砂降りのせいでそこら中水浸しだ。
雨が上がったのだから旅を再開しよう、と煉骨は言ったが、蛮骨は同意しなかった。
「明日ぜったい出発するから、今日一日ここで過ごそうぜ」
二人はしばし言い合っていたが、最後はいつものように副将が折れた。
「何をするも大兄貴の勝手だが、俺に手伝わせるなよ」
不機嫌な煉骨の言葉は半分聞き流し、蛮骨は凶骨を呼んだ。
「凶骨、ついてきてくれ」
珍しく指名され、凶骨は喜んで蛮骨についていった。
新之助も面白そうにその後を追って森に入っていった。
「ったく、何で天下の七人隊がガキのために墓なんか……」
「いいじゃないですか。何事もやってみなければわかりませんよ」
医者のままの睡骨は、呑気に煉骨をなだめる。
「でも、大兄貴にもあんな面があるんですねぇ。
私はたまにしか出て来れないので、初めてわかりましたよ」
「大兄貴はああみえて、結構情に流されるタイプだぜ。
相手を見極めるのにも長けてるから、悪い方向にはいかないが…」
へえぇ、と睡骨は感心する。
「何だかんだ言って、あなたも結構見てるんですね」
うるさい、と煉骨はそっぽを向いた。
蛮骨たちは、川原に来ていた。
雨の影響で水かさが増し、ごうごうと音をたてて流れている。
あちこちに、大きな岩が剥き出しの状態で転がっていた。
「新之助、墓石はどれがいい?」
蛮骨に言われ、新之助はそれぞれの岩を品定めする。
――かっこいいのがいいなぁ……
勝手について来ていた蛇骨は、木にもたれて息をついた。
(……ありえねぇ)
死人が自分の墓石を面白そうに選んでいるなど。
蛮骨も、どうしてあんな小僧に構うのか。
(別に子供好きってわけでもねえくせに……)
時折、楽しそうに話す声が聞こえる。彼も一緒に岩を選んでいるのだ。
違う。あんなの蛮骨ではない。
ふと蛇骨は、足元に目をやった。
自分が足をかけている岩が目に映る。
(なんかこれ……よくねえ…?)
水の力で程よくけずられ、見栄えもなかなかだ。どこかの庭石にしても大丈夫なくらいである。
足をのけて、蛇骨は彼らを呼んだ。
「おーあにきー」
蛮骨たちは蛇骨のもとへやってきて、その岩を眺めた。
「おお、これがいいんじゃねぇか?」
――うんっ。これが一番かっこいいよ!
新之助も大きく頷いた。
蛇骨を見上げ、にっこり笑う。
――教えてくれてありがとう、蛇骨っ。おいら、気に入ったよ。
その笑顔が、妙に心に染みてくるのを、蛇骨は感じた。
「凶骨」
蛮骨が呼ぶと、凶骨は即座に応じてその岩を持ち上げた。
「さ、戻るか」
彼らは寺までの道を戻ろうと、川に沿って歩いた。
新之助は嬉しそうに飛び回り、凶骨の抱えた岩を様々な角度から眺めた。
その姿を見ていた蛇骨は、足場がなくなっていることに気付かなかった。
「へっ?」
突然視界が反転し、次の瞬間には水に落ちていた。
水音に驚いた蛮骨たちが川岸に駆け寄る。
「な、なにやってんだよお前!」
言ってるうちに、蛇骨の身体は流されていく。
「たっ、助けっ…」
水かさが増しているため、足が底につかない。むなしく流されていくのが、自分でもわかる。
必死で視線を巡らせると、ちょうど張り出した木の枝が見えた。
渾身の力で手を伸ばし、それをつかんだ。
蛇骨が自力で川から這い上がるのと同じころ、蛮骨も彼に追いついた。
「ほんと間抜けだなー」
「すまねぇ、足が滑った……」
「っていうか、前方不注意だろ。……あれ、お前何持ってんだ?」
「はい?」
蛮骨の視線を追って、蛇骨は己の手元を見た。何かを握っている。
流されるうちに手中に飛び込んだのだろう。
手を開くと、白くて細長いものがあった。
「なんだこれ。枝じゃねぇし、石じゃねぇし…」
ぎくりと、蛇骨はあることに思い至った。これは…。
「骨だな」
まさに蛇骨が考えていたことが、蛮骨の口から出た。
「骨…だよなぁ……うわーっ、気持ち悪ぃっ!!」
蛇骨は慌ててそれを川に放り投げようとした。しかし。
――まって。
新之助が、それを止める。
蛇骨の手の内にある骨をじっと見つめて、意識を集中させた。
――間違いない。
蛮骨、これ、おいらの骨だよ!!
「ええーっ!?」
蛮骨と蛇骨は同時に叫んだ。
「なんでこんなところに…」
「上流から流れてきたんだな。でも蛇骨の手に偶然入ってくるなんて、運がいいなぁ」
なんだか運命的なものも感じてしまう。
三人は急いで寺へと戻った。
先に戻っていた凶骨は岩をどすんと地面におろした。
「へぇ、けっこう立派なモン拾ってきたじゃねえか」
煉骨は岩をまじまじと眺めた。
原石というものを見ると、煉骨の職人魂がうずく。
「まあ、俺が見栄えよく加工してやらんでもない…」
言ってるうちから、両手にはさっそく工具を握っている。
がががが、と音をたてて、勝手に削り始める。
しばらくすると、蛮骨たちが急いで戻ってきた。
「蛇骨、なんでびしょ濡れなんだ?雨に降られたか?」
霧骨は不思議そうに蛇骨を見た。
「うるせぇな!それよりもコレだ!坊主の骨を見つけたんだぜ!」
「おや、それは良かったですね」
睡骨も表へ出てきて、皆は墓を掘り始めた。
獣に掘り起こされないくらい深く掘り、そこに唯一の骨を収めた。
穴を埋めたところで、煉骨が歓声をあげた。
「よし、できたぞ。見よ、俺の力作を!!」
皆はそちらを見ておお、と感嘆した。
煉骨の横には、きれいに磨かれツヤをだし、中央に<新之助ココニ眠ル>と彫られた岩が置かれている。
――すごいっ
ありがとう、煉骨!
「ふっ、墓石を作るのは初めてだが、なかなかの出来だろう」
額に光る汗を拭い、煉骨は満足そうだった。
埋めた穴の上に、七人は慎重に岩を置いた。
「新之助、できたぞー」
――わぁっ、おいらの墓だ!
すごいすごいと、新之助はそこら中を飛び回って大喜びしている。
「中に入ってみろよ」
蛇骨も面白そうだ。
新之助は応じて、墓下の土にすぅーっと消えていった。
埋められた自分の骨に魂を移したのだ。
すると、辺りが不思議な霧に包まれはじめた。
「な、なんだぁ?霧が出てきたぞ…」
「あ……」
睡骨が霧の向こうを指差した。
そちらを見ると、人の影が浮かび上がっている。
「誰だ?」
蛮骨は眉をひそめた。
人影はゆっくりと近づいてきた。
霧の中から現れたのは、ヨボヨボの老人だった。
彼の姿は、白くかすんでいる。
――あっ、爺さま!!
その姿を認め、新之助が墓から飛び出す。
――おお、おお。新之助や、探したぞ…
老人は新之助を受け止め、わしわしとその頭を撫でた。目には涙が光っている。
新之助に触れるということは、この人物も幽霊だ。
老人は七人に向き直った。
――わしはこの寺の住職をしていた者で。この子を残して先に死んでしまったから、せめて三途の川の瀬で待っていようと思っていたのだが、この子はこの世に取り残されてしもうた…
「じゃあどうして、今は迎えに来れたんだ?」
―――あなた方の作った墓に、新太郎の魂が宿ったことで、導ができたのです。
それをたどって、ここへ来ることができました。
二人の姿が、だんだんと薄くなっていく。
―――この世に長居はできません。
わしらはもう逝かねば…
「そうか…。じゃあな、新之助。向こうで楽しく暮らせよ」
新之助は七人に向かってにっこり笑った。
――皆、ありがとう! おいら、絶対忘れないよ……
旅立つ瞬間、大きな眼に涙がにじんでいるのが見えた。
二人の身体は静かに上昇し、やがて空の色にとけていった。
「逝っちまったなぁ……」
蛇骨は小さく呟いた。
蛮骨が振り向くと、仲間たちは新之助の消えていった空を眺めていた。
少年は人知れず笑う。
俺たちは手伝わない、と言いながら、結局全員が新之助の成仏に加担したのだ。
「俺さ、あんなふうに子供に笑いかけられたことなんて、今までなかった…」
蛇骨も、淋しそうに笑った。
「ま、まあ…たまには、こんなのも…いい、かもな。…たまには」
頭をかきながら、煉骨は言った。
そうでしょう、と睡骨も頷く。
「じゃ、俺らも出発するか。
まだ日は高いし、また雨が来る前に山を越えようぜ!」
高く晴れた空に、蛮骨の声が響いた。
<終>