山を下りてふもとの森にさしかかったところで、日が暮れた。
川が流れていたので、その近くで野宿することに決め、皆は魚をとりに川へ入った。
川はきれいに澄んでいて、魚もたくさんいたのだが、ジョージはなかなか上手くいかないでいた。
その時、大きな飛沫しぶきがあがった。
凶骨が川底の石で滑って転んだのだ。
「なにしやがるんだ凶骨!!魚が皆逃げちまったじゃねーか!!」
蛇骨は喚きながら凶骨をげしげし蹴っている。
「ったく、ばかだなぁ」
隣でぼそっと呟いた煉骨の言葉に、ジョージは面白そうに微笑んだ。
ふと、煉骨がジョージの足元に目をやる。
「おいジョージ。そこに魚がいるぜ」
「オウ、本当ダ」
どうしたら上手くとれるかわからず、ジョージはオロオロした。
「落ち着け。俺の言うとおりにやってみろ」
小声で煉骨がささやき、ジョージは彼の言葉に従った。
そしてなんとか、魚を捕まえることができた。
「オオッ、ヤッタです!煉骨のオカゲです!!」
無邪気に喜んでいるジョージに、煉骨も思わず微笑んだ。
その後も順調に魚をとり続け、十分な量になると、皆は水をかけ合ってふざけていた。
いつもは叱るはずの煉骨まで、ジョージと一緒に楽しそうに話している。
七人隊は、外人のジョージが一緒にいても、違和感を感じないほどに打ち解けていた。
びしょ濡れになるまで遊んだあと、皆で火を囲んで焼き魚を食べた。
それからまたジョージを質問攻めにし、夜も更けたところでようやく眠りについたのだった。
皆が寝ている間、煉骨はジョージからもらった本を熱心に読んでいた。
昼間に、訳がわかりづらい箇所をジョージから教えてもらっていたので、スラスラと理解できた。

そして、そんな日が数日続いた。

七人隊の目的地まであとわずか。
分かれ道に差し掛かった時、ジョージはここで別れると告げた。
「皆サンには、ホントにお世話にナリマシタ」
「そっか…ジョージは自分の国に帰らねぇと駄目だもんな…」
蛇骨は残念そうに顔をうつむけた。
コホンと咳払いをし、煉骨が前に進み出た。
「ジョージ、何か欲しいもんはねぇか?俺が持ってるもんなら、くれてやるぜ」
仲間たちは驚いている。
「珍しいなぁ、あの煉骨が…」
煉骨はわずかに赤くなっている。
彼らを眺めて、蛮骨はふっと小さく笑った。
「日本に来た記念に、俺達に会った記念に、何かもらっていけよ」
ジョージはしばし逡巡した。
「デハ、武士の魂ヲクダサイ」
「武士の魂……刀か」
といっても、普通の刀を武器にしている者はいない。
煉骨は、何かあったときのために葛篭つづらにしまってある脇差しを取り出した。
「これしかないんだ。これでいいなら…」
ジョージは目を輝かせてそれを受け取った。
「アリガトーゴザイマス!家宝にするデス!!」
大げさだなぁと、皆は笑った。
煉骨はジョージと固く握手した。
「じゃ、元気でな」
「ハイ。皆サンのコト、一生忘レマセン!」
ジョージと七人隊は、手を振り合いながら、それぞれの道へ進んだ。

 

「ええっ、戦が中止!?」
目的地にたどり着き、城の者に話を聞いた蛮骨は、がくりと肩を落とした。
何でも、お互いの領主たちが同時期に病にかかってしまい、完治するまでは延期とすることにしたらしい。
「そんな勝手な…」
「はぁ。しかし、お互いに自分達の目が届かないところで戦を始められるのは嫌だということで…」
城の者も言いにくそうな風情だ。
仕方なく、七人はその城をあとにした。
「どうするんだ大兄貴。戦が始まるまで待つのか?」
「待つわけねーだろ!ジジイどもの病に付き合ってられるかってんだ。
他の戦を探しに行くしかねぇなぁ…」
せっかく山を越えてきたのにと、蛮骨は頭をおさえた。
「あっ、そうだ。戦が見つかるまでよぉ、またジョージと一緒にいようぜ」
はしゃいだ様子で蛇骨が言った。
「あー、まだ追いつけるかもな」
ここにいても何があるわけでもない。
とりあえずまたジョージと行動を共にしても、別に損があることもない。
蛇骨の提案を受け入れた彼らはジョージを追って、もと来た道を引き返した。

 

ジョージに会わないうちに、海が見えてきた。
「なるほど、ここらにジョージの船があるんだな」
だが、船はどこにも見当たらない。
海沿いの村を歩いていると、村人たちから怪訝な視線を向けられた。
「なんなんだ?ずいぶん無愛想なやつらだな」
疑問に思いながらも、彼らは村を抜けた。
ジョージを探して歩いていると、道端にむしろが無造作に置かれていた。
「殺しか?こんな辺鄙へんぴな場所で、物騒なことだな」
彼らはその横を通り過ぎようとした。
煉骨は、何となくムシロの足元に視線を投じた。

そして、その瞳が凍りついた。

履き物に見覚えがあった。
慌てて煉骨はムシロを取り去った。
驚いて仲間たちが振り返ると、そこにはジョージが横たわっていた。
「な……」
「ジョージ!?」
袈裟懸けに斬られ、彼はすでに息絶えていた。
煉骨は青い顔をして、ジョージの肩を揺する。
「おいっ、起きろ!俺たち、お前を追って来たんだぞ!!」
皆は呆然とその死体を見つめていた。
蛇骨の目に、知らないうちに涙が込み上げてくる。
仲間たちが顔をうつむけても、煉骨はジョージを起こそうと必死で呼びかけ、体を揺すった。
険しい顔の蛮骨が、そっと煉骨を押さえた。
「煉骨、もうやめろ…」
「なんでだよ!なんでジョージが死んでんだ!!だってこいつはっ……」
煉骨の激しい視線を、蛮骨は静かな瞳で受け止める。
「だって…こいつはっ…仲間と一緒に船に乗って…自分の国に帰るんだろ!?
そのためにここまで来たんだろ!?」
煉骨の悲痛な叫びに、仲間たちは鎮痛な面持ちで、目を伏せた。
蛮骨は煉骨の目をまっすぐに見返す。
「そうだな…だけど、これが現実なんだ」
静かだが重みのある言葉に、煉骨ははっとした。
意識が急速に現実に引き戻されるようだった。
認めたくない現実が、目の前にある。
煉骨の目から涙がこぼれた。
何も言えなくなった煉骨の腕からジョージを受け取り、蛮骨はゆっくり莚の上に寝かせた。
ジョージの顔は、眠っているかのように穏やかだった。
そこへ、年老いた僧侶がやってきた。
「もし、あなた方はこの方の知り合いか?」
「まぁ、そんなとこだ」
蛮骨は僧侶と向き合った。
「私も、旅の途中で偶然遺体を見つけてな。今、墓の準備をしてきたのじゃ。
遺体を運ぶのを手伝ってくれまいか」
蛮骨たちは墓を作る場所へジョージの遺体を運んだ。
海を見渡せる、きれいな所だった。
掘っておいた穴にジョージを埋め、一緒にあの脇差しも入れてやった。
「…せっかく刀もくれてやったのに、抵抗しなかったんだな…」
上に岩を置いて墓をこしらえると、僧侶は経を読んだ。
「この男、見たところ異国の者だろう。かわいそうに、海岸に切り捨てられていたよ」
皆は順番に、墓に手をあわせた。こんなことをするのは初めての者もいた。
異国とは葬り方が違うのかもしれないが、少しでも慰めになりますようにと祈った。
最後に墓の前に座った煉骨は、魂が抜けたようにそこにいた。
蛮骨はそっと僧侶に話しかけた。
「殺したのは、さっきの村の奴らか…?」
「たぶん、そうじゃろうな…。
こんな辺境の地じゃ。いきなり外人が現れて、驚き恐れてしまうのも仕方ないのかもしれんが…」
煉骨が、ふらりと立ち上がった。
「煉骨、どこへ行く?」
「あの村の奴ら…殺しに行く」
蛮骨は煉骨の肩を抑えた。
「やめておけ。そんなことしても無駄だ。
ここで皆殺しにしても、同じようなヤツはこの国にごまんといる」
蛮骨の厳しい視線を受けて、煉骨はなんとか踏み止まった。
皆はしばし、無言で佇んでいた。
蛇骨が、ぽつりと呟いた。
「やっぱ…違うよな。同じ会えないにしても、生きてるのと死んでるのじゃ…」
その頭にぽんと手を置き、蛮骨は息をつきながら空を仰いだ。

「なんでこの国の人間は、異質なもんを受け入れてやれねぇんだろうな…」

一陣の風が、吹き抜けていった。

<終>

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