虚無

法螺貝の音が、遠くから聞こえてくる。
蛮骨は、ぼんやりとそれを聞いている。

戦が終わった。
もちろん、七人隊が味方した軍の圧倒的な勝利だ。
周囲の兵たちが、歓声を上げながら飛び跳ねている。 自軍の者たちだ。
だが、蛮骨には微塵もそんな感情は湧かなかった。

こんな光景は見慣れている。
戦で勝利するたびに、七人隊が勝利へ導いてやるたびに聞くもの。
いつも、おなじだ。
戦いの最中は、楽しいと自覚している。
てんで相手にならない連中だったとしても、その血を見ると興奮する。
だが、戦いの後に残るのは、虚無感。
終わってみると、楽しかったとも、嬉しいとも思えない。
ああ、これはやっぱり仕事なんだと、そう思う。
いつもいつも、最後に行き着くのは同じ光景。
勝利に沸く兵たちの姿。自分がそれに加わることはなく、虚無感の中で、それを眺めているだけだ。
所詮は、世界が違うのか。

兵たちは続々と本拠へ戻っていく。
彼らの顔は笑顔で輝いている。
きっとこいつらは、村に帰れば英雄だの何だのと称賛を受けるのだろう。
違うな、と思った。
こいつらと同じことを数回重ねただけで、自分たちは鬼とまで呼ばれるようになった。
そこには称賛も何もない。
自分たちが生きて戻ることを、泣いて喜ぶ者もいない。
虚無感が、さらに募った。

兵はいなくなり、蛮骨は血まみれの大地に一人でいた。
急いで戻ることはない。自分にその必要は、ない。
血の生臭さと、焦げたような臭いが鼻をつく。
足元にも、はるか彼方にも、目につくのは死体ばかり。
これも、見慣れた光景だ。
この大地で、血まみれの自分だけが立っていて、他は皆地面に伏している。そう考えると、なんだかおかしくなった。
唐突に、空が陰る。
すぐに、滝のような雨が降り出した。
蛮骨は雨に濡れながら空を見上げた。
空には光がある。それに、一度にこれだけの量が降るのだから、この雨はすぐに止む。
そう考え、蛮骨は戦場に視線を戻した。
焼き尽くされた戦場に、雨をしのげる場所などない。探すだけ無駄だろう。
雨が、地を洗う。
地に染み込んだ血が、雨水にとけて流れる。
蛮骨が浴びた血も、流れてゆく。
ずっと流れていけば、川に注ぐのだろうか。それともそこへ達する前に、乾いて消え去るだろうか。
あるいは再び地に染み入り、植物の肥しとされるか。
雨が身体をたたく。
虚無感の溝を埋めるかのように。

予想通りに、雨はすぐに去った。眩しいほどの光がそそぐ。
ふいに、仲間に会いたいと思った。
心配なわけではない。よもやこんな小さな戦で死ぬような輩ではない。
どこにいるのか。
最初は七人揃っていたのだが、戦っている間に離れたのだ。……いつものことだが。
本拠に戻ろうかと踵を返したとき、静まりかえった戦場に鳥の声が響いた。
その方向を見やると、差し込む光の間を縫うように飛んでくる影がある。
「……なぎ
少ない羽ばたきで、滑るようにこちらへ飛んでくるのは、睡骨が手なずけたハヤブサだった。
とまれるような木がないので、蛮骨が腕を差し出すと、凪はそこへ舞い降りた。
その足に、文が巻かれてある。
読むと、煉骨のものと思われる達筆な字で、
『どこにいるのか、自分たちは今から本拠に戻るから、大兄貴もそうしてくれ』と書いてあった。
彼らは自分を探していたのか。
そうとも知らずにさっさと戻ろうとした自分が、なんだか薄情に思えてくる。
同時に、仲間の顔が早く見たい、と思った。
「よし。凪、皆のところへ案内してくれ」
素早く目で応じ、凪は空へ戻った。蛮骨もその後を追う。
あの方向に行けば、仲間たちがいる。

唯一、自分を人として見てくれる、数少ない者たちが。

<終>

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