仲間意識

激しい地響きが起こる。
七人隊は先陣を切って戦っていた。先ほどからの地響きは、煉骨や銀骨が大砲をぶっ放した衝撃で起こったものだ。
爆発のあとには、死体が折重なる。
蛇骨の刀がうなると、その軌道には血が舞う。
実に簡単な戦だった。
大した戦略が張り巡らされたわけでもなく、敵味方が正面からぶつかっている。
蛮骨は風のような速さで敵陣に突っ込み、あっという間に敵の大将の首をとった。
敵方の者たちは四方八方に逃げ出した。
蛮骨はそんな者を追って片付ける気はない。
必要なら味方の兵どもがやればいいのだし、何よりそれは蛇骨の趣味だ。
いつものように仕込み刀を閃かせて楽しんでいる蛇骨を何となく眺め、蛮骨は伸びをした。
(あとは金もらって、酒でも飲んで……)
この辺では城下町なんかもないから、さっさと次の仕事を探しにいこう。
「おう、大兄貴」
向こうからゆっくりとした足取りで戻ってきた睡骨が話しかけてきた。
「手ごたえのねぇ戦だったな」
全くだと、蛮骨は頷いた。

煉骨は道具を片付けていた。
戦場のど真ん中だが、敵も逃げ出し、味方の兵だってほとんどいない。
だから心配ないだろうと思っていた。
つづらの中に火薬を入れている煉骨の後ろに、鈍く光るものがある。
遠目にそれを認めた蛮骨は、瞠目した。
「煉骨!!」
その声に驚いた煉骨はつづらから顔をあげた。同時に、嫌な気配を感じ取って後ろを振り向く。
が、遅かった。
血にまみれた鎧の兵が、振り上げた刀で煉骨の背を斜めに斬る。
「ぐぅっ……!」
煉骨は大きくよろめいた。
兵は笑みを浮かべてなおも刀を振ろうとしたが、一瞬後に、崩れ落ちた。
蛇骨が遠方から蛇骨刀で切り捨てたのだ。
危険が去ったのを知った途端、激痛が身体をおそった。
苦痛のうめきを漏らし、煉骨は倒れ込む。
「煉骨っ…」
蛮骨と睡骨が急いで駆けつけた。
「す…まね……大兄貴…」
煉骨の額に汗がにじんでいる。
蛮骨は傷の具合をみた。
「命にかかわる程じゃねえ。だけど、早く城に戻ったほうがいいな」
羅刹の睡骨が応じ、爪をはずして煉骨を背負った。
蛮骨は煉骨のつづらを背負い、城へ向かった。


煉骨は、のろのろと瞼を上げた。
布団に、うつ伏せに寝かされている。
いつの間にか気を失っていたようだ。すでに手当てもなされていた。
「気がついたか、煉骨」
蛮骨が枕元に寄って覗き込んでくる。
「大兄貴……すまねえ、迷惑かけちまった」
煉骨は斬られたときのことを思い出した。
いくら油断していたとはいえ、あんな雑魚に背後をとられ、傷まで負わされるとは。
不覚だ、とうめく副将を見て、蛮骨は笑った。
「そんな気にすんなよ。 医者の睡骨が診たところじゃ、傷も深くないし、安静にしてりゃあ良くなるってよ」
「そうか……」
そのとき、横合いから蛇骨が飛び込んできた。
「煉骨の兄貴!気がついたのかぁー、良かったぜ…」
大した怪我ではないのだが、目に涙までためて喜んでいる。
まるで先ほど戦場で見た彼ではない。
「煉骨の兄貴、何かほしいモンあるか? 俺が何でも持ってきてやるぜ!」
「じゃあ、お前に出て行ってほしい」
煉骨は眉をしかめて言った。その言葉に蛮骨は噴き出す。
「ひでぇな~、俺は本気で心配してたんだぞ!大兄貴まで笑いやがって!!」
蛇骨は怒って部屋を出て行ってしまった。
「ったく、うるせー野郎だ」
煉骨はふぅと息をついた。蛮骨はやれやれと肩をすくめる。
「どっちもどっちだなぁ。…でも、ホントに心配はしてたみてえだから、それだけはわかっておいてやれよ?」
「ああ…わかってるさ」
副将は小さな笑いを浮かべた。
「じゃ、大人しく寝てろよ。たまにはこーゆうのも良いだろ」
そういい残して蛮骨も部屋を出て行った。
うつ伏せの体勢に疲れて、煉骨は身体を横向きにしてみた。少し背中が痛んだが、すぐに楽になった。
こんなふうに床に伏すなど、本当に久しぶりだ。
傷口が熱をもっている。塗られた薬のせいだろう。
煉骨は、だんだんウトウトとしていった。

再び目を覚ましたのは、日が落ちる頃だった。
目を開けて一番最初に見たのは、霧骨の顔だった。
「……」
「よ、煉骨」
「…何か用か?」
「俺の新作を試してぇんだ。お前の怪我がちょうどいい」
霧骨は手の中の紙包みを見せた。粉薬が入っているようだ。
「この薬は痛み止めだ。毒じゃねぇから安心しな」
煉骨は思いっきり顔をしかめる。
いくら痛み止めといっても、試すのは煉骨が初めてだという。しかも製作者は霧骨。
そんな怪しい薬、飲めるわけがない。
「ことわる。睡骨がくれたので十分だ」
だが霧骨はそれを無視して煉骨の口に薬を近づけた。
「やっ、やめろっ!霧骨てめぇ、病人を実験台にするんじゃねぇ!!」
「いいじゃねぇかよ。死ぬわけじゃなし」
だが煉骨があまりにも抵抗するので、霧骨はむすっとして立ち上がった。
「なんだよ、人がせっかく痛みをやわらげてやろうって言ってんのに」
霧骨は大きく足音を立てて、どすどすと部屋から出ていった。
すると立て続けに、蛇骨がやってきた。
「兄貴~、調子どうだぁ~?」
蛇骨は煉骨の横に座ると、手に握った花を差し出した。
「……なんだ」
「摘んできた!お見舞いだよ。
…でもやっぱ、兄貴には花がぜんぜん似合わねぇな~」
あははは、と大笑いしている彼にむっとしながらも、煉骨は花を受け取った。
なんだこいつも結構かわいいヤツじゃないかと、寝ながら花を眺めていると、蛇骨は声をひそめた。
「煉骨の兄貴、もういっこお見舞いだ。……俺のカンザシ、一本やるよ」
「はあっ!?」
いやぁ、と蛇骨は照れくさそうに笑う。
「俺も全部気に入ってんだけどさ。兄貴もがんばって痛みと戦ってるわけだし?
ここは一つ、俺からのささやかな贈り物っつーことで…」
煉骨は青ざめた。蛇骨が本気なのか冗談で言っているのか、わからない。
「で、全部持ってきた。どれがいい?好きなの選べよ」
蛇骨は袖からたくさんのカンザシを出し、並べはじめる。
彼はいたって本気なようだ。
煉骨の拳がふるえた。
「蛇骨、冗談はもういい…」
蛇骨は首を傾げる。
「遠慮すんなって。俺のことは気にせず、選んでくれよ」
「そーゆう問題じゃねぇ!大体、俺がカンザシなんかもらってどーするんだ!!」
蛇骨はきょとんと目を見開いた。そして、ああっ、と手をたたく。
「そうかぁ~!兄貴は髪がねえから、カンザシさせねえんだな!
残念だなぁ…兄貴、ハゲってつらいな……」
しみじみ言う蛇骨に、ついに煉骨はプツリといってしまった。
「てんめぇー!!いい加減にしやがれこの野郎!」
ぐわっと拳を振り上げると、蛇骨は慌てて逃げていった。

しばらくすると、睡骨が食事を運んできた。
手当てをしたときは医者の方だったらしいが、今は羅刹に戻っている。
「……」
「……」
羅刹の睡骨は普段は無口なほうなので、大した話もせずに煉骨と向き合っている。
煉骨は居心地が悪かった。
ずっと黙したままで、正面からじっと自分の食事風景を眺められているのでは、箸も進まない。
「どうした、箸が動いてねぇぞ」
「……俺ひとりで食ってるから、もう出て行っていいんだが…」
「お前が食い終わったらまた器を持って帰らねぇと駄目だろ」
いちいち取りにくるのが面倒だから、食べ終わるまで待っているという。
ならばせめてこの静けさをどうにかしてほしいのだが。
ううむと内心で唸りながら、何とか全て食べ終えた。
睡骨は器をとると、黙って部屋を出て行った。
沈黙地獄から開放され、煉骨は大きく息をつく。
自分だって五月蝿うるさいのが好きなわけではないが、今のは耐えがたかった。
一息ついて傷の具合を確かめていると、急いだ様子で蛮骨がやってきた。
「煉骨、煉骨!」
今度は何だと煉骨は少年を見る。
蛮骨は両の手の平を胸の前で合わせている。
訝しげな視線を送ると、彼は笑って近寄ってきた。
「ほら、これ、なんだと思う?」
わけがわからず、煉骨は首を傾けた。
蛮骨は煉骨の目の前で、手を開いてみせた。
そこから、何かが飛び出した。
「うわっ」
驚いてよく見ると、それは黄色い蝶だった。
蝶は蛮骨の手をはなれ、ひらひらと部屋のなかを飛んだ。
「びっくりしただろ」
「大兄貴にしては、考えることが可愛らしいな」
蛮骨はハハ、と笑った。
「あの蝶は、銀骨からだ」
「銀骨?」
そうだと頷き、蛮骨は面白そうに思い起こした。

蛮骨が庭を歩いていた時だ。
銀骨が、空を見上げてそこにいた。
蛮骨も顔を上げて銀骨の視線を追ってみると、そこには黄色の蝶がいた。
銀骨が見ていたのはその蝶だったのだ。
蛮骨はその蝶をつかまえ、銀骨に渡してやった。
すると銀骨が言ったのだ。
「ギシッ、大兄貴。
それは煉骨の兄貴にやってくれ」
「は?煉骨に?」
銀骨はギシギシと身体を揺らした。
自分は中に入れないから、代わりに渡してきてほしいのだと。
そして、早く元気になってくれと伝えてほしいと、言っていた。

話を聞いて、煉骨は苦笑した。
「あいつらしいな」
「ああ。皆心配してるだろ。早く元気になるんだぞ?」
蛇骨や銀骨が淋しがっているから。睡骨も霧骨も皆、本当は気にかけているのだから。
「そうそう。さっき食べた料理、猪の肉が入ってたろ。あれは凶骨が獲ってきたんだ」
あいつもいいとこあるよなーと笑う。煉骨もやれやれと笑った。
七人隊の者たちは、誰かが怪我をしたり風邪を引いたりするだけで、必要以上に心配してくる。
それが見えにくいこともあるが、総じて過保護なきらいがあるのではないかと、煉骨は思う。
だが、と煉骨は少年を見やった。
仲間が倒れたとき、誰よりも一番にそれを心配しているのは、蛮骨なのだ。
それは蛇骨だろうが睡骨だろうが霧骨だろうが、変わらない。
彼は仲間を守れないことを悔やみ、いつも内心で己を責めている。
飄々とした外見からはわかりにくいが、影で彼のそんな姿を幾度か垣間見たことのある煉骨には、それがわかっていた。
心配してくれる彼らを、自分は怒らせてばかりだ。
元気になったら遠まわしにでも礼は言っておこうかと思う煉骨であった。

部屋をぐるぐると飛んでいた蝶が、窓から外へ出て行った。
その向こうに、赤い夕焼けが見えた。

<終>

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