柳暗花明りゅうあんかめい

ねぐらの町に帰って、数日が過ぎた。
夕食を食べ終えた蛮骨は、朔夜のいる自分の部屋でくつろいでいる。
朔夜に、旅の中での出来事を話して聞かせていた。
「で、タヌキが人間に化けてな…」
体験したおかしなことを、蛮骨は楽しそうに話す。
朔夜も嬉しそうに笑いながらそれを聞いていた。
「面白いわね。ねぇ蛮骨、私も蒼空そらくんに会ってみたい。無理かしら?」
「いや、呼べば来ると思うぜ。お前にもきっと懐くさ」
「じゃあ、今度紹介してね。約束よ」
蛮骨は笑いながら頷き、朔夜が敷いた布団に横になった。
朔夜も隣の布団に寝る。
「朔夜、もっとこっちに来い」
蛮骨は彼女の肩を引き寄せ、自分の布団に入れた。
容易に移された華奢な身体を抱きしめる。
「蛮骨、どうしたの?寒い?」
「ん、寒い。だから今日はこうして寝る」
言うと、目の前にある朔夜の唇をふさいだ。
すぐに離すと、赤くなった顔で朔夜が見上げてきた。
小さく笑うと、また口唇を重ねる。今度はすぐには離さない。
舌を絡めて、強く抱きしめる。
しだいに、蛮骨は彼女に被さるような体勢になっていった。

長く儚い夜が、明けていく。
白み始めた窓の外を眺めながら、蛮骨は火照った身体を冷ましていた。
「朔夜」
しばらくの後に蛮骨に呼ばれ、朔夜は顔をあげる。
「花見にでも行くか。土手の辺りが、ちょうど見ごろだろ?」
言いながら髪を撫でられ、朔夜はみるみる笑顔になる。
「お花見!?行くっ、行きたい!」
疲れも忘れて、布団のなかではしゃいでいる。
「うん。じゃあ連れてってやるから、少し寝ようぜ」
今から寝ても少しすればまた起きることになるが、一睡もしないよりはマシだ。
蛮骨は布団をかけ直して、浅い眠りに入っていった。


「兄貴、花見に行くんだろ~?」
起き出して朝餉あさげに向かう道すがら、ひょこりと顔を出した蛇骨に言われた。
「……何で知ってる?」
「朔夜が教えてくれた!皆で行くんだろ、楽しみだなぁ~」
にっこりと笑いながら、蛇骨は軽い足取りで去っていく。
その背を見つめながら、蛮骨は呆然と呟いた。
「み、皆で……?」
ちょっと待て、どういうことだ。
蛮骨は慌てて朔夜のいる台所へ向かった。
「あら蛮骨。おはよう。見て、お花見だから沢山作ったの」
自慢げに朔夜が見せたのは、美味しそうな弁当の数々。
しかし、二人で食べるには明らかに多い。
「朔夜…お前、皆で行くつもりだったのか?」
「え?」
朔夜はきょとんとした顔で首を傾げた。
蛮骨はがくりと項垂れ、朔夜の肩にもたれかかる。
「ば、蛮骨…?」
「頼むぜ朔夜…俺は二人で行きたかったんだよぉ…」
「え、あっ…そうだったの!?」
「そうだったの!!」
「ご、ごめんなさい!お花見っていったら、皆でするものだとばかり…」
朔夜は困った顔になる。
「でもどうしよう…こんなに作っちゃったし、皆も楽しみにしてるのよ?」
蛮骨の口から、諦めたようなため息が漏れた。
なんとか体勢を直し、恨めしげに弁当を眺める。
「しょーがねぇから、今日は皆で行ってやる。
いいか、次どっか行くときは二人だからな、基本的に」
「う、うん!今度から気をつけるね」
とりあえず弁当は無駄にならずに済んだので、朔夜はほっと胸を撫で下ろす。
そして、蛮骨が二人で行きたいと思っていたことを、すごく嬉しく感じたのだった。


 

川原の土手には桜がちょうど満開に咲き誇っている。
天気がよく風が穏やかで、花見にはもってこいである。
「うわ~、綺麗だなぁ!!な、どこに座る?」
あちこち走り回る蛇骨を、煉骨がやれやれと連れ戻す。
「少し大人しくできねぇのか!」
「できねえ!」
ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた二人を放っておいて、残りの面々は手ごろな位置を見つけて弁当を広げる。
「おお、美味そう…」
「凶骨の分も多めに作っておいたからね」
朔夜が何段か積まれた凶骨用の弁当を差し出した。
「うおおおおおー!!すげぇ嬉しいぜ!!!」
皆は箸を手に取り、朔夜の作った弁当を食べ始めた。
「美味いなぁ。大兄貴は幸せもんだなぁ…」
「ぎしっ、いい嫁さんだ」
「ちょっと、まだ嫁じゃないでしょ!」
「でも、いつかはそうなるんだろー?」
いつのまに喧嘩をやめたのか、戻ってきた蛇骨が弁当を頬張りながら訊く。
「え?えーと…」
なんと答えれば良いのかわからず、朔夜は蛮骨の方を見る。
本当にそうなってくれるだろうか。
朔夜の視線に気付いた蛮骨は、ふっと笑うと大きく頷いた。
「今さらそんなこと訊くなよ蛇骨」
「ははっ、悪ぃな~」
朔夜は安堵すると同時に、目元が熱くなってきた。
気付かれないように俯いていると、背を軽く叩かれる。
見上げると、蛮骨が優しく笑っていた。
何よりも好きなその暖かさに、朔夜も満面の微笑みを返した。
その時、睡骨のもとに凪が舞い降りる。
「お?お前も食うか?」
睡骨が弁当を分けてやると、凪は美味しそうについばんだ。
「そういえば、蒼空に会いたいんだっけか。今呼んでやるよ」
蛮骨はどこにともなく顔を向け、狼の名前を呼んだ。
しばらくの後、風の速さで駆ける白狼が現れた。
「なに、蛮骨呼んだでしょ!?ねえねえ、何?」
蒼空は蛮骨を見るなり目を輝かせて、その顔を嘗め回した。
「こらっ、…落ち着けってば!」
「わぁ、本当に喋るのね!!」
朔夜が恐ろしげもなく蒼空に近づく。
巨大な狼は首を巡らせて、珍しそうに彼女を見つめた。
「この人誰?」
「大兄貴の嫁さんだ」
ニヒヒと笑って、蛇骨が答える。
「お嫁さん!?わあっ、蛮骨にお嫁さんだ!!」
「あーもう、落ち着けって言ってるだろうが!!」
蒼空はぴょんと飛び跳ね、朔夜のもとへ近づいた。
「俺、蒼空っていうんだ。蛮骨のこと、いつもお世話してるんだ」
朔夜はくすくすと笑ってその頭を撫でる。
「そうなの?ありがとうね」
朔夜と蒼空はすっかり仲良くなった。
蒼空も弁当を分けてもらい、いちいち「おお!」だの「わあ!」だのと感嘆しながら食べていた。
その後も賑やかなお花見は、陽が沈むまで続いたのだった。

<終>

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