睡骨・蛇骨・霧骨の三名は、ううむと唸りながら額をつき合わせていた。
場所は暗い森の中。
光も遮られて、方向すらもよくわからない。
「どうする、これから…」
彼らは、仲間からはぐれてしまったのである。
結束
ほんの数時間前。
七人隊は、戦場で戦っていた。
「蛇骨っ、そっちに行ったぞ!!」
煉骨の攻撃をかわして向かってくる敵を、蛇骨は容赦なく切り刻む。
毎度のごとく、戦場は火の海、血の雨で染まっていた。
雑魚が大方片付き、蛮骨たちはそろそろ敵の本陣へ乗り込もうと足を進めた。
「今度の戦も楽勝だな」
煉骨の言葉に、蛮骨も大きく頷く。
「大将の首とったら、皆で酒盛りでもしようぜ」
すでに戦が終わったあとのことにまで話が盛り上がっていた時。
急に、地を揺るがすほどの轟音が鳴り響いた。
何ごとかと視線を巡らせると、敵の陣からわずかに煙があがっているのが見える。
数瞬後、辺りでものすごい爆発がいくつも生じた。
「うわっ」
爆風が身体に叩きつけ、蛇骨は転びそうになったが、蛮骨がすんでのところでそれを支える。
「ちっ…みんなっ、ひとまず逃げろ!」
蛮骨の指示に従い、彼らは手近の森に身を潜めた。
「大兄貴、あれは…」
「大砲だな。敵さん、あんな物を隠し持ってやがったのか」
蛮骨は剣呑に眉をひそめる。
爆発の威力と飛行距離から見て、あれは新式の大砲だ。
今煉骨が持っている物より優れているかもしれない。
しかも、数が多いようだ。同じ爆発が、同時にいろんな場所で起こっている。
「舐めたマネを……」
「どうするんだ、大兄貴?」
威力を見せつけられていささか心配そうな煉骨に、蛮骨は臆したふうもなく笑ってみせた。
「敵の陣に行って、砲撃をやめさせるしかねぇだろ。
爆発の間を縫って敵陣に近づいて、そこの奴らを皆殺しだ。
そうでもしねぇと本陣まで行けないんじゃねぇか?」
大砲は、どうやら二つの陣に設置してあるらしい。全部で何台なのかは把握できないが、だいたい双方に同じくらいあるようだ。
七人は、二手に分かれることにした。
蛮骨は凶骨を見上げた。
「凶骨、お前はここで待っててくれ」
「えっ…」
凶骨は戸惑った。自分が役立たずだから行かせてもらえないのだろうかと、不安になる。
凶骨の胸中を察して、蛮骨は口の端をあげた。
「爆発を避けるのに、小回りがきいた方がいい。お前はここにいて、砲撃が止んだと思ったら出て来い。皆は、凶骨がいるところに集合だ」
「おう!!」
こうして、蛮骨・蛇骨・霧骨の組と、煉骨・睡骨・銀骨の組に分かれ、それぞれに行動を開始した。
蛮骨たちの組は、向かって右に見える陣営を目指して走る。
所々で生じる爆発が行く手を阻むので、まっすぐ突き進むことができず、イライラした。
蛇骨はイライラを霧骨にぶつける。
「おい霧骨!ちんたら走ってんじゃねーよ!!」
「な、なんだと!てめぇこそちゃんと前見て走りやがれ!!」
霧骨も負けじと怒号を返した。
後方の二人のやりとりを聞いて、前を行っていた蛮骨はハァと息をついた。
「おいっ、真面目に…」
蛮骨が口を開いた瞬間、地面が吹っ飛んだ。
運悪く、砲撃の一つが直撃したのだ。
「うわああああ!!」
叫びが轟音に呑まれる。
炎と爆風で、三人の身体はあっという間に空へ放り出された。
煉骨たちの組も悲惨な状況だった。
敵に見つかって、集中的に砲撃に狙われているのだ。
煉骨は銀骨の砲筒で応戦するものの、やはり向こうの大砲の方が優れていた。
敵の砲撃はこちらに届くのに、こちらの攻撃はあと少しで届かない。
「煉骨、もう一度引いた方がいいんじゃねぇか?これ以上進むのも危険だ」
睡骨の言葉に、煉骨も渋々頷く。
全速力で銀骨を走らせ、逃げている最中でも砲撃は止まない。
そして、いくつかの砲撃が同じ場所に重なった。
爆発どうしがぶつかりあい、巨大な爆発を生んだ。
ひどい爆風がもろに身体をたたき、睡骨と煉骨は飛ばされそうになった。
煉骨は何とか銀骨につかまることができたが、睡骨はそのまま彼方へふっ飛んでしまった。
「睡骨っ!!」
煉骨は必死で首を巡らせるが、睡骨の姿はすでに視界から消えていた。
砲撃の中でゆっくり探すこともできず、煉骨と銀骨はひとまずこの場から逃げることを優先した。
地面に身体を叩きつけられた蛮骨は、よろよろと起き上がった。
痛む頭を押さえて周囲を見渡すと、戦場の端の森に落とされたのがわかった。
轟音が遠くに聞こえている。
「ちっくしょー、いきなり撃ちやがって…」
自分が巻き込まれたのも、あの二人がつまらないことで喧嘩をして、もたもたしていたからだ。
一言物申してやろうと、蛮骨は二人の姿を探す。
「………あれ?」
そういえば蛇骨と霧骨の姿が見えない。
声をかけてみても、返事はなかった。
もしや、もしかしたら…
「はぐれた…?」
爆発で宙に投げ出されて、その後どうなったのかはよくわからない。
自分はここに落ちたが、あの二人はどうなったのだろう。
死んでいることはないと思いたいが、離れた場所に落ちたのは確かだ。
「うわー、どうすっかな……」
蛮骨は唸って頭を抱える。
仲間を探しに行くべきか、一人で砲撃を止めに行くべきか。
しばし悩んだ後、蛮骨は顔をあげて敵の陣を見据えた。砲撃の方を優先にしよう。
どの道、砲撃が続けばゆっくり仲間を探すこともできない。
あのうざったい爆発を止めて、残りの仲間と合流してから探す方がいいだろう。
身体が少し痛んだが、蛮骨は蛮竜を握り締めると一気に駆け出した。
砲撃はあいかわらず続いているが、なぜかあの二人がいない方がスムーズに事が運んでいるような気がした。
敵陣に乗り込むと、蛮骨は片っ端から兵を切り捨てた。
陣の敵は少なく、ほとんどが大砲の操作についていたので、簡単に目的は果たされた。
右陣の砲撃が止み、戦場は少し静かになる。
蛮骨は巨大な大砲を見上げた。
自分が見てもよくわからないが、煉骨はこうゆうのが大好きなのだろう。
必要なら煉骨が自分で左陣のを盗ってくるだろうと判断し、蛮骨は大砲を全て破壊した。
援軍がきても、もう機動することはなくなった。
「火薬は持っていったほうがいいか……?」
火薬なら使えるだろう。
戦場を見ると、まだ左陣の砲撃は続いているようだ。
今運んで爆発にのまれたら非常に危険だ。
とりあえず戦が終わってから運ぶことに決め、蛮骨は大砲の横の火薬の山を適当に隠しておいた。
「よーし、煉骨たちの手伝いでもしにいくか」
コキコキと肩を鳴らし、蛮骨は左陣へ向かう。
だが、そこへ着く前にそちらの砲撃も止んだ。
それを認めてか、凶骨が戦場に姿を見せたので、蛮骨は足をそっちに向けた。
凶骨と合流してしばらくすると、煉骨と銀骨もやってきた。
煉骨たちが被害を受けた先の大爆発が敵軍にも悪影響を及ぼしたらしく、煉骨たちはその混乱に乗じて敵陣を攻めたのである。
言うなれば敵が自爆したようなものだ。
「あれ、睡骨はどうした」
蛮骨の問いに、煉骨は罰が悪そうな顔をして低く唸った。
「それが、砲撃をくらって飛ばされちまった…」
「なんだ、お前らもかよ…俺達もそうなんだ。
俺は無事だったが、蛇骨と霧骨の姿が見えねぇ」
蛮骨に言われて初めて、煉骨は蛇骨たちがいないのに気付いた。
「困ったな、バラバラになっちまった…
そうだ、凶骨。何か飛んでくモノを見なかったか?」
念のため訊いてみるものの、凶骨も首を横に振るばかりだ。
「まあ、大丈夫なんじゃねぇの?
あいつらだってたぶん死んでねぇだろうし、自力で戻って来るのを待つしかないだろ」
大砲を破壊したのだし、この戦ももうすぐ決着がつく。
そしたら本陣で酒でも飲んで待っていればいいだろう。
あえて楽観的に考える蛮骨に、煉骨もうなずくしかなかった。